ここでは、非事業者の金銭貸借と債務整理を取り上げますが、金銭貸借では、履行を確保するた
めにも金銭消費貸借契約書等の書面を作成しておくことが大事になります。
債務がかさんで生活が困難になった場合は、債務を整理する必要が生じますが、任意整理、特定
調停、民事再生、破産から適切な手続を選択することになります。
金銭貸借
金銭貸借の際は、金銭消費貸借契約書、借用証等の書面を作成すべきであり、場合によっては
公正証書にしておくとよいでしょう。金銭貸借時に書面を作成しなかった場合は、適宜な機会に
債務承認書や弁済契約書を得ておくべきです。
⑴ 金銭消費貸借契約書、借用証
金銭を貸したり、借りたりすることもよくありますが、親族や知人間の貸借では、金銭消費
貸借契約書等の書面を作成しないことも多いでしょう。
確かに、契約の成立については、近代私法の大原則である契約自由の原則(契約締結の自由、
相手方選択の自由、契約方法の自由、契約内容の自由)の一面である「契約方法の自由」によ
り、当事者の意思表示のみに法的効力を与え、書面の作成を要件としていません。金銭貸借に
おいても然りです。
また、親族間や知人間でそこまで・・・ということもあるかと思います。
しかし、書面の作成は、①慎重な意思決定の要請、②内容の明確化の要請、③証拠化の要請、
その他の要請によるものです。そうした諸要請が必要なのは、親族間や知人間においても同様
であり、書面化によって、トラブルを回避し、良好な関係を維持することにもなるのではない
でしょうか。
返済がなくてもよいというおおらかな心境の場合は除いて、金銭消費貸借契約書を作成する
か、借用証を差し入れてもらうべきでしょう。
本当に窮地にあり感謝の気持を持てる人は、自ら借用証を用意し、あるいは進んで契約書を
交わすでしょう。そうでない人は・・・。
金銭消費貸借契約書は、貸主、借主の双方が署名(・押印)し、各自1通を保管します。借
用証は、借主が署名(・押印)して貸主に交付し、貸主が保管します。
⑵ 公正証書
返済がなければすぐにも強制執行をしたいという場合は、費用はかかりますが、公正証書に
しておくのがよいでしょう。
金銭の一定額の支払い等については、公正証書に、強制執行認諾文言(当該金銭債務を履行
しないときは、直ちに強制執行に服する旨の文言)を付すことにより、簡便に債務名義を取得
することができます。
ここで、債務名義とは、特定の私法上の給付義務の存在及び範囲を表示した書面で法律がこ
れによって強制執行をなしうることを認めたものであり、公正証書以外は、確定判決、仮執行
宣言付判決、和解・調停調書など、裁判所の関与のもとに作成されたものとなります。
⑶ 金銭貸借時に書面を作成していない場合
金銭貸借時に金銭消費貸借契約書等を作成していない場合は、適宜な機会に債務者の協力を
求め、債務承認書、債務承認弁済契約書、金銭準消費貸借契約書等を作成するようにするとよ
いでしょう。
債務承認書は、金銭債務の存在を証するもので、債務者が差し入れます。債務承認弁済契約
書は、既に存在する金銭債務を認め、弁済方法等を定めるものです。
準消費貸借契約は、金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合に、当事者がその物
をもって消費貸借の目的とすることを約する契約であり、民法588条は、「消費貸借によら
ないで・・」としていますが、判例は、消費貸借による債務についても可能としています。複
数ある債務を一つにまとめるなどの目的で利用されます。
準消費貸借契約によって旧債務は消滅しますが、原則として(当事者の反対の意思が明らか
でない限り)、新・旧債務が同一性を維持し、担保や同時履行の抗弁権は新債務に引き継がれ
ることになります。これに対し、当事者の意思に左右されないものは、新債務の性質によって
定まり、例えば、時効期間が変わることなどがあります。
⑷ 印紙
契約書など「印紙税法別表第一課物件表」に掲げられている文書には印紙税が課されます。
契約書を複数作成した場合は、全部に印紙を貼付しなければなりません。
ここで、契約書とは、契約当事者が契約の成立を明らかにする文書をいい、既に成立してい
る契約の内容の変更、追加を明らかにする文書や、本契約前に作成する予約の契約書も含みま
す。
契約の効力には影響しませんが、印紙税を納付しないと、納付しなかった印紙税額の3倍(自
主的に申し出たときは1.1倍)の過怠税が、所定の方法で消印しなかったときは、消印しなか
った収入印紙額と同額の過怠税が課されます。
ア 消費貸借に関する契約書(金銭借用証書、金銭消費貸借契約書等)は、記載された契約
金額が1万円以上の場合は、金額に応じた印紙税がかかります。100万円を超え500
万円以下の場合で2,000円となっています。
イ 金銭貸借に関する債務承認書、債務承認弁済契約書
① 原契約書が口頭契約の場合、原契約書で金額の記載のない場合
この場合は、当該文書によって契約金額を証明することになり、契約金額の記載の
ある消費貸借契約書として、金額に応じた印紙税が必要となります。
② 原契約書に金額の定めがあり、弁済期限等の変更にとどまるもの
契約金額を変更するものではなく、契約金額の記載のない消費貸借に関する契約書
として、印紙額は一律200円となります。
⑸ 参考―弁護士に係る委任契約書、領収書について
参考までに、弁護士に係る委任契約書、領収書にも触れておきます。
ア 委任契約書
委任契約書は、印紙税法で定める課税文書に入っていず、不課税文書となっています。
イ 領収書
金銭又は有価証券の受取書については、記載された受取金額が5万円以下は非課税です。
また、「営業に関しないもの」は非課税文書とされていますが、営業に関しないものと
は、具体的には、商法上の「商人」に当らないと解される者が作成する受取書をいいます。
これにより、農業従事者が作成する受取書、医師等の作成する受取書、法人組織の病院
等が作成する受取書、いわゆる士業が業務上作成する受取書等は、営業に関しない受取書
として取り扱うことにされています。
弁護士の作成する領収書も、そうした受取書に該当し、非課税文書となっています。
したがって、弁護士の領収書に印紙が貼付されていなくてもご心配いりません。