法的倒産手続は、再建型手続と清算型手続に区別され、前者には、会社更生法に基づく更生手続
と民事再生法に基づく再生手続が、後者には、破産法に基づく破産手続と会社法に基づく特別清算
があります。
ここでは、再建型手続である民事再生をとりあげます。
⑴ 民事再生とは
民事再生とは、「経済的窮境にある債務者について、債権者の多数の同意を得て、かつ、裁
判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、当該債務者と債権者との間の民事上の権
利関係を適切に調整し、もって債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする」手
続です(民事再生法1条)。
民事再生は、法人・自然人、事業者・非事業者の別を問わず利用可能な手続ですが、負債額
が少ない個人事業者や給与所得者を対象とした個人再生手続も特例として規定されています。
従来の和議法に代わる手続で、手続開始の要件は、「破産手続開始の原因となる事実の生ず
るおそれ」又は「事業の係属に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済できないこ
と」とされ(21条)、債務超過や支払い不能に陥っていなくてもその可能性があれば申請で
きること、経営者の刷新は必須ではないことなどの特徴があります。
⑵ 民事再生のメリット・デメリット
ア メリット
ⅰ 全ての種類の会社だけでなく、法人、個人も利用が可能。
株式会社のみが利用可能な会社更生と異なっています。
ⅱ 事業を継続することができる。
債務の一部免除や弁済猶予(原則10年)を受けながら事業を継続できます。
ⅲ 経営者が退陣する必要がない。
経営方針を維持することができます。経営陣が経営権を喪失し、管財人が経営に当たる
会社更生法と異なっています。
ⅳ 事業資金の確保が可能となります。
金融機関に民事再生申立てを通知すると、債務者の口座に入金した預金について相殺が
禁止されることにより、事業資金の確保ができます。
イ デメリット
ⅰ 担保権は別除権として行使可能
担保権は、別除権として、再生手続による制約を受けません。
ⅱ 債務免除益課税
再生計画による債務免除についても債務免除益課税が課されます。
ⅲ 信用失墜
民事再生は再建型ではありますが、倒産法制の一つであり、信用不安が生じる可能性が
あります。
⑶ 民事再生手続の概略
民事再生は、ⅰ民事再生申立て、ⅱ保全処分発令、監督員の選任、ⅲ再生手続開始決定、ⅳ
再生計画の作成、提出、ⅴ再生計画認可決定、の順に手続が進められます。
再生債務者によって作成、提出された再生計画案について、①議決権者の過半数の同意と②
議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(172条の3第1項)と
いう可決要件を満たすと、再生計画不認可事由がない限り、裁判所は再生計画認可決定をしま
す(174条)。
再生計画認可決定が確定すると、再生計画の定めや民事再生法の規定によって認められる権
利を除いて、再生債務者は、再生債権について免責され、再生債権者の権利は再生計画の定め
に従って変更されます(178条、179条)。
再生計画案の作成見込みがないときなどや再生計画案が否決されたとき等は、裁判所は、職
権で再生手続廃止決定をし(191条)、状況により、職権で破産手続開始決定をすることに
なります(250条)。
⑷ 個人再生手続
個人再生とは、個人債務者が、返済総額を圧縮して原則3年で返済する再生計画を立案し、
再生債権者の決議または意見を聞いて、裁判所が認可し、再生計画に従った返済によって、残
債務が免除される手続です。個人再生手続には、小規模個人再生手続と給与所得者等再生手続
の2つがあります。
ア 小規模個人再生
主として個人事業主を対象とした手続ですが、将来において継続的に又は反復して収入を
得る見込みがあり、かつ、再生債権(住宅ローン等を除く)の総額が5000万円を超えな
い個人が利用できる手続です(221条)。
小規模個人再生では、原則として3年間で、①負債額に対応する最低弁済額と②保有財産
額(清算価値)のいずれかの多い金額を最低弁済額として返済する必要があります。
①は、次のとおりです。
100万円未満 債務総額
100万円以上500万円以下 100万円
500万円超1500万円以下 債務総額の5分の1
1500万円超3000万円以下 300万円
3000万円超5000万円未満 債務総額の10分の1
②は、再生における弁済率が、破産における配当率を超えるものでなければならないとす
るものです。
イ 給与所得者再生
給与所得者再生は、給与又はこれに翠する定期的な収入を得る見込みが大きく、かつ、そ
の変動の幅が小さいと見込まれる個人が利用できる手続です(239条)。
給与所得者再生の場合は、前記の①、②のほか、③可処分所得(収入額から税金や最低生
活費等を差し引いた金額)の2年分のうち、いずれかの多い金額を最低弁済額とすることに
なります。
小規模個人再生と異なり、再生債権者による再生計画案の決議は不要で、再生債権者は意
見を述べることができるに止まります(240条)
ただし、過去7年以内に破産免責を受けている場合は申立てできません。
ウ その他
小規模個人再生、給与所得者再生のいずれについても、住宅資金特別条項を利用(住宅の
処分を要せず、再生手続外でローン返済を続けること)することが可能です。実態として、
返済総額が少額で済むことなどから、給与所得者についても小規模個人再生を利用すること
が多いようです。