7 遺留分



  1 遺留分制度
 
   ⑴ 意義

     遺留分とは、法律上、一定の相続人が取得することを保障されている相続財産の一定割合
    をいいます。
     遺留分制度により、被相続人は、贈与や遺贈によって遺留分を侵害することはできないと
    いうことになります。
     遺留分制度は、被相続人の遺言の自由と法定相続人の平等や利益とを調整するための制度
    ということができます。 
  
   ⑵ 遺留分権利者

     遺留分の権利者は、兄弟姉妹以外の相続人であり(民法1028条)、具体的には、被相
    続人の子、配偶者、直系尊属となります。
     胎児も遺留分権利者であり、代襲相続人も遺留分を有します(1044条)。
     遺留分権の基礎が法定相続権にあることから、相続欠格、廃除、放棄によって法定相続権
    を失うと、遺留分権も失います。
   
   ⑶ 遺留分の割合

     遺留分の割合は、被相続人の財産のうち遺留すべき割合である「総体的遺留分の割合」と、
    各遺留分権利者の具体的な遺留分の割合である「個別的遺留分の割合」に区別されます。

    ア 総体的遺留分の割合

      法は、相対的遺留分の割合を定めており、直系尊属のみが相続人であるときは、被相続
     人の財産の3分の1(1028条1号)、その他の場合は、被相続人の財産の2分の1
     (1028条2号)としています。
      その他の場合には、配偶者と子、配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹、配偶者のみ、
     子のみ、の場合があります。

    イ 個別的遺留分の割合

      遺留分権利者が複数の場合、個別的遺留分は、各相続人の法定相続分に応じて配分され
     ることになります(1044条、900条)。

   ⑷ 遺留分の放棄

     相続開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力が認めら
    れます(1043条1項)。
     遺留分の保障を受けるか否かは遺留分権利者の自由ですが、法の理念に反する遺産分配の
    手段とし、被相続人が威迫により放棄させるなどの制度の濫用を防止する観点から裁判所が
    関与するものとしています。
     放棄をしても、放棄者の相続分(法定相続分、指定相続分)に影響はありません。
     共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の各共同相続人の遺留分に影響は及びません
    (同条2項)。


  2 遺留分額の具体的な算定
  
    遺留分額を具体的に算定するには、遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに前述の
   相対的な遺留分率を乗じ、さらに各相続人の法定相続分率を乗じて、個別的遺留分の額が算定
   されます。
 
   ⑴ 遺留分算定の基礎となる財産
  
     遺留分算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、
    贈与した財産の価額を加え、債務の全額を控除して算定します(1029条1項)。
     遺留分算定の基礎財産額=相続開始時財産額+贈与財産額-債務総額

    ア 相続開始時財産額

      相続開始時の財産額は、相続人が承継した積極財産であり、一身専属的な権利や祭祀財
     産は除外されます。
      条件付の権利や存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所選定の鑑定人の評価によります
     (1029条2項)
      ここでは、遺贈、死因贈与は、相続開始時に現存する財産と考えられています。

    イ 贈与財産額

      取引の安全の観点から、ここでの贈与を、相続開始前の1年間にしたもの、遺留分権利
     者を害することを知ってなしたものに限るものとしています(1030条)。
   
     ⅰ 相続開始間1年間にした贈与

       ここで、「1年間にした」とは、贈与契約がなされたことをいいます。したがって、
      契約が1年より前になされていれば、履行が1年以内であっても該当しないことになり
      ます。
       また、ここでの贈与とは、すべての無償処分を指し、無償の債務免除も含むとされて
      います。

     ⅱ 遺留分権利者を害することを知ってした贈与

       「損害を加えることを知って」とは、客観的に遺留分権利者に損害を加えるべき事実
      関係を知っていれば舘、遺留分権利者を害する目的や意思を必要としないと解されてい
      ます。
       そして、損害を加えるべき事実関係の認識は、贈与が自由分を超えて遺留分を侵害す
      る事実の認識があり、将来において被相続人の財産が増加することがないという予見が
      必要であるとされています。
    
     ⅲ 不相当な対価による有償行為

       有償行為であっても、不相当な対価により、当事者双方が遺留分権利者に損害を加え
      ることを知ってなした場合は、贈与とみなされます(1039条前段)。

     ⅳ 相続人の特別受益

       特別受益を受けた者がいる場合、当該贈与は、時期を問わず、遺留分計算の基礎とな
      る贈与額に加算されます(1044条、903条)。
       被相続人の持戻免除の意思表示がある場合については、見解が分かれていましたが、
      最高裁平成24年1月26日判決は、持戻免除の意思表示は、遺留分算定の基礎財産額
      に影響を及ぼさないとしました。


    ウ 債務

      債務には、租税や罰金等の公法上の債務も含まれるとされています。


  3 遺留分減殺請求
  
   ⑴ 意義 

     遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害された者が、受贈者に対し、遺留分を保全するに必要
    な限度で、贈与や遺贈の減殺を請求することをいいます。
   
   ⑵ 遺留分減殺請求権者、相手方

     遺留分減殺請求権者は、遺留分権利者及びその承継人であり(1031条)、承継人には、
    相続人・包括受遺者等の遺留分権の包括承継人のみならず個別的な減殺請求権を譲り受けた
    者等の特定承継人も含まれます。
     相手方は、受遺者、受贈者及びそれらの包括承継人と悪意の特定承継人、権利確定者とな
    ります(1040条1項但書、2項)

   ⑶ 遺留分減殺の方法・順序

     遺留分減殺の方法は、遺留分減殺者から被減殺者に対する意思表示により、訴えの方法に
    よることを要しません。
     遺留分減殺の順序は、遺贈が先で、贈与はその後となります(1033条)。
     遺贈が数個あるときは、遺言があればその指定に従い、遺言がなければ各遺贈の価額の割
    合に応じて減殺します(1034条)。
     贈与が数個あるときは、後の贈与から始めて、順次前の贈与に及ぼしていきます(103
    5条)。同時になされた数個の贈与がある場合は、遺贈の場合に準じて、価額の割合に応じ
    て減殺すべきものと解されています。

   ⑷ 遺留分減殺請求の効果

     遺留分減殺請求権の法的性質について、判例・通説は形成権=物権説の立場をとっていま
    すが、その立場からは、遺留分減殺請求によって遺留分侵害行為は効力を失い、当然に目的
    物上の権利は遺留分権利者に復帰すると解されています。
     ただし、特定遺贈・贈与、包括遺贈、相続分の指定、相続させる旨の遺言等処分行為の性
    質に応じて法的効果にも差異が生じ、また、現実に実現する方法も含めて、錯綜した議論が
    なされています。
     具体的な効果としては、受贈者は減殺請求日以後の果実の返還義務を負い(1036条)、
    受贈者が無資力の場合、次順位の者に減殺請求をすることはできず(1037条)、負担付
    贈与は負担の価額を控除したものについて減殺請求をすることができ(1038条)、不相
    当な対価から贈与とみなされた場合に減殺請求するについては、その対価を償還する必要が
    あり(1039条)、受贈者が目的物を他人に譲渡し、または権利を設定した場合には、価
    額弁償を求めることになるが、譲受人等が遺留分侵害の事実を知っていたときはその者に対
    しても減殺請求をすることができ(1040条)、受贈者及び受遺者は、贈与または遺贈の
    目的の価額を弁法することにより返還義務を免れます(1041条)。

   ⑸ 遺留分減殺請求権の消滅時効

     遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があっ
    たことを知ったときから、1年間行使しなければ時効によって消滅します(1042条)。
     相続開始時から10年経過したときも消滅しますが、この場合は、除斥期間と解されてい
    ます。
     「知ったとき」について、最高裁昭和57年11月12日判決は、「贈与の事実及びこれ
    が減殺できるものであることを知った時」としています。