8 遺留分



 1 遺留分制度

   遺留分については、改正前は1028条から1044条に規定されていましたが、改正後
  (令和元年7月1日施行)は1042条から1049条となっています。
   主要な改正点としては、①遺留分権の行使は、遺留分侵害額請求権に基づく金銭の支払い
  請求となったこと、②遺留分の算定方法につき、特別受益は相続開始10年以内のものに制
  限するものとされたこと等が挙げられます。

  ⑴ 意義

    遺留分とは、法律上、一定の相続人が取得することを保障されている相続財産の一定割
   合をいいます。
    遺留分制度は、被相続人の遺言の自由と法定相続人の平等や利益とを調整する制度とい
   うことができます。
   
  ⑵ 遺留分権利者

    遺留分の権利者は、兄弟姉妹以外の相続人であり(民法1042条)、具体的には、被
   相続人の子、配偶者、直系尊属となります。
    胎児も遺留分権利者であり、代襲相続人も遺留分を有します。
    遺留分権の基礎が法定相続権にあることから、相続欠格、廃除、放棄によって法定相続
   権を失うと、遺留分権も失います。
  
  ⑶ 遺留分の割合

    遺留分の割合は、被相続人の財産のうち遺留すべき割合である「総体的遺留分の割合」
   と、各遺留分権利者の具体的な遺留分の割合である「個別的遺留分の割合」に区別されま
   す。

    ア 総体的遺留分の割合
 
      法は、総体的遺留分の割合を定めており、直系尊属のみが相続人であるときは、被
     相続人の財産の3分の1(1042条1項1号)、その他の場合は、被相続人の財産
     の2分の1(1042条1項2号)としています。
      その他の場合には、配偶者と子、配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹、配偶者の
     み、子のみ、の場合があります。

    イ 個別的遺留分の割合

      遺留分権利者が複数の場合、個別的遺留分は、各相続人の法定相続分に応じて配分
     されることになります(1042条2項)。

  ⑷ 遺留分の放棄

    相続開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力が認め
   られます(1049条1項)。
    遺留分の保障を受けるか否かは遺留分権利者の自由ですが、法の理念に反する遺産分配
   の手段とし、被相続人が威迫により放棄させるなどの制度の濫用を防止する観点から裁判
   所が関与するものとしています。
    放棄をしても、放棄者の相続分(法定相続分、指定相続分)に影響はありません。
    共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の各共同相続人の遺留分に影響は及びませ
   ん(同条2項)。

  
 2 遺留分額の具体的な算定
  
   遺留分額を具体的に算定するには、遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに前述
  の総体的な遺留分率を乗じ、さらに各相続人の法定相続分率を乗じて、個別的遺留分の額が
  算定されます。
 
  ⑴ 遺留分算定の基礎となる財産の価額
  
    遺留分算定の基礎となる財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の
   価額に、贈与した財産の価額を加え、債務の全額を控除した額です(1043条1項)。
    遺留分算定の基礎財産額=相続開始時財産額+贈与財産額-債務総額

    ア 相続開始時財産額

      相続開始時の財産額は、相続人が承継した積極財産であり、一身専属的な権利や祭
     祀財産は除外されます。
      条件付の権利や存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所選定の鑑定人の評価により
     ます(1043条2項)
      ここでは、遺贈、死因贈与は、相続開始時に現存する財産と考えられています。

    イ 贈与財産額
   
     (ア) 贈与
  
        取引の安全の観点から、ここでの贈与を、相続開始前の1年間にしたもの、遺
       留分権利者を害することを知ってなしたものに限るものとし(1044条1項)、
       相続人に対する贈与(特別受益)について、相続開始10年以内のものに制限しま
       した(同3項)。   

      ⅰ 相続開始間1年間にした贈与

        ここで、「1年間にした」とは、贈与契約がなされたことをいいます。したがっ
       て、契約が1年より前になされていれば、履行が1年以内であっても該当しないこ
       とになります。
        また、ここでの贈与とは、すべての無償処分を指し、無償の債務免除も含むとさ
       れています。
 
      ⅱ 遺留分権利者を害することを知ってした贈与

        「損害を加えることを知って」とは、客観的に遺留分権利者に損害を加えるべき
       事実関係を知っていれば、遺留分権利者を害する目的や意思を必要としないと解さ
       れています。
        そして、損害を加えるべき事実関係の認識は、贈与が自由分を超えて遺留分を侵
       害する事実の認識があり、将来において被相続人の財産が増加することがないとい
       う予見が必要であるとされています。
    
      ⅲ 相続人の特別受益

        改正前は、特別受益に当る贈与は、時期を問わず、遺留分計算の基礎となる贈与
       額に加算されるものとしていましたが、改正法は、相続開始前10年以内のものに
       限りました(1044条3項)。
   
      (イ) 負担付贈与
    
      ⅰ 改正法は、遺留分侵害額の請求の対象となるのみならず、遺留分算定の基礎とな
       る財産額の算定においても、負担額を控除することを明確にしました(1045条
       1項)。
 
      ⅱ 不相当な対価による有償行為

        改正法は、不相当な対価をもってした有償行為(当事者双方が遺留分権利者に損
       害を加えることを知ってなした場合)を負担付贈与とみなし、遺留分算定の基礎と
       なる財産額の算定においても、不相当な対価を控除するものとしました(同2項)。

    ウ 債務

      債務には、租税や罰金等の公法上の債務も含まれるとされています。

 

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