相続問題は、だれでも、いつかは何らかの形で直面する可能性の高い法律問題です。
現在、法制審において、居住権の保護など配偶者の生活保障を中心に、寄与分制度、遺留分制度
等の見直しを含めた相続法制の改正が審議されており、近く、その詳細が明らかになるでしょう。
ただし、相続については、相続が発生したときの法律が適用されますので、現行の法制について
も不要となるものではありません。
相続の概略
⑴ 相続とは
相続とは、死亡した個人の有していた財産上の権利・義務を、その配偶者や子などの一定の
身分関係のある者に承継させる制度です。日本では、債務も含めた被相続人の財産の一切が承
継される包括承継主義をとっています。
相続は、死亡によって、被相続人の住所において開始します(民法882条、883条)。
被相続人の死亡の事実により当然に相続が開始し、相続人が被相続人の死亡を知っていたか否
かは問いません。死亡には、自然死のみではなく、失踪宣告(民法31条)や認定死亡(戸籍
法89条)も含まれます。
⑵ 遺産の分割
ア 遺言書があり、遺産分割の方法を指定し、または、遺産分割の方法を定めることを第三者
に委託していたときは、原則として、遺言の内容によって遺産分割がなされます(指定分割。
遺言書の方式によって手続が違います)。
しかし、遺言の内容が具体的でなかったり、一部財産の指定のみであったりした場合、遺
言が相続分の割合の指定であった場合は、さらに相続人全員による遺産分割協議(協議分割)
が必要となります。
また、相続人全員が、遺言の内容を知り、そのうえで遺言と異なる遺産分割協議をするこ
とは可能とされています。
イ 遺言書がない場合、遺言書があっても遺言内容が具体的でなかったり、一部財産の指定の
みであったりした場合、遺言が相続分の割合の指定であった場合等については、相続人全員
による遺産分割協議が必要となります。
相続人が複数いるときは、相続財産は一旦共有となり、遺産分割により相続開始の時に遡
って効力を生じることになります(民法898条、909条)。
相続人全員の合意により、法定相続分や(遺言による)指定相続分と異なった分割をする
こともできます。
ウ なお、可分債権については、法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利
を承継し(最判昭和29年4月8日)、遺産分割協議は不要とされていましたが、可分債権
のうち、「預貯金」については、最近、遺産分割協議を必要とする最高裁判例が出ています
(平成28年12月19日、平成29年4月6日)。
また、債務についても、相続分に応じて各相続人に分割承継され、債権者は、各相続人に
相続分に応じた請求のみができ、相続人は相続分に応じて弁済すればよいことになります。
これと異なる負担割合を遺言や遺産分割で決めた場合、相続人間では有効であり、債権者は、
応じることもできますが、応じる義務はありません。
令和元年7月1日施行の改正法は、相続分の指定がある場合の債権者の権利行使につき、
各相続人に対し法定相続分に応じて権利行使ができるが、債権者が共同相続人の一人に対し
てその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでないとしました
(902条の2新設)。
⑶ 遺産分割の期限の存否
遺産分割に期限はありませんが、放置している間に別途相続が発生して複雑化して協議が困
難になったり、遺産や資料が散逸する危険性もあり、また、相続税法上もデメリットが生じる
可能性があります。したがって、できれば相続税の申告期限内に終えておくのがよいでしょう。
相続税の申告と納税は、当該遺産に係る基礎控除額を超える場合に必要となり、申告及び納
税期限である「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内」に行わないと加
算税や延滞税がかかることがあります。
申告・納税期限までに遺産分割協議が成立しないときは、法定相続分に基づいて各相続人が
相続したものとして、納税し、後日遺産分割が成立したときに修正申告等をすることになりま
す。
相続税の申告期限内に遺産分割を終えて、申告をすると、相続税の優遇・特例措置を受ける
ことができます。
例えば、「配偶者の税率軽減制度」、「小規模宅地等の課税価格の計算特例」などの適用が
受けられないと、(一時的に)相続税が増えることとなります。
ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、3年以内に遺産分割を終
えた場合には適用を受けることができます。
なお、「配偶者の税率軽減制度」、「小規模宅地等の課税価格の計算特例」等を利用したこ
とによって基礎控除額を下回る場合、相続税を収める必要はありませんが、申告は必要です。