11 契約
⑴ 総則
―契約の成立
ア 契約の締結及び内容の自由(第521条)
改正法は、「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうか
を自由に決定することができる。」(第1項)、「契約の当事者は、法令の制限内
において、契約の内容を自由に決定することができる。」(第2項)との規定を新
設しました。
これは、「契約自由の原則」を明文化したもので、第1項は「契約締結の自由」、
第2項は「内容決定の自由」を規定しています。
イ 契約の成立と方式(第522条)
改正法は第522条も新設し、「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入
れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾したときに成立す
る。」(第1項)、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面
の作成その他の方式を具備することを要しない。」(第2項)としました。
契約は申込みと承諾によって成立するとの基本と「方式の自由」を明文化したも
のです。
ウ 承諾の期間の定めのある申込み(第523条)
改正法は、「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただ
し、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない」(第1項)とし、
改正前の第521条第1項から「契約の(申込み)」という文言を除き、ただし書
きを付加しました。第2項は、改正前の第521条第2項のままです。
エ 遅延した承諾の効力(第524条)
改正前の第523条がそのまま第524条に繰り下げられました。
オ 承諾の期間の定めのない申込み(第525条)
改正法第525条第1項は、改正前の第524条から「隔地者に対して」との文
言を除き、隔地者に限定しないものとしたうえで、「ただし、申込者が撤回する権
利を留保したときは、この限りではない。」とただし書を加えました。
また、改正法は、「対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわら
ず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。」(第2項)、
「対話者に対してした第1項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承
諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者
が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでな
い。」(第3項)として、対話者間についての規定を新設しました。
カ 申込者の死亡等(第526条)
改正法第526条は、削除された改正前の第525条に対応する規定であり、改
正法第97条第3項の特則として、申込みが効力を有しない例外を定めています。
「申込者が申込の通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者と
なり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとす
ればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が
承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、
その効力を生じない。」
キ 承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期(第527条)
改正法第527条は、改正前の第526条第2項がそのまま移動したものです。
なお、改正前の第527条は、「申込みの撤回の通知の延着」に係る規定でした
が、承諾の意思表示が発信主義から到達主義に変更されて(第522条第1項)、
必要性がなくなったものとして削除されました。
ク 懸賞広告(第529条)
改正法は、「ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を公告した者(以下、「
懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかに
かかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。」として、改正前の規
定に下線部を付加しました。
条文上不明であった懸賞広告の存在を知らずに指定行為を行った者が報酬請求権
を有するか否かについては、契約説、単独行為説の立場から議論がありましたが、
改正法は、上記の文言を付加することによってこれを解消しました。
ケ 指定した行為をする期間の定めのある懸賞広告(第529条の2)
改正法は、第529条の2の規定を新設しました。
「懸賞広告者は、その指定した行為をする期間を定めてした広告を撤回すること
ができない。ただし、その広告において撤回をする権利を留保したときは、この限
りでない。」(第1項)
「前項の広告は、その期間内に指定した行為を完了する者がないときは、その効
力を失う。」(第2項)
コ 指定した行為をする期間の定めのない懸賞広告(第529条の3)
改正法は、第529条の3として、「懸賞広告者は、その指定した行為を完了す
る者がない間は、その指定した行為をする期間を定めないでした広告を撤回するこ
とができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りで
はない。」とする規定を新設しました。
サ 懸賞広告の撤回の方法(第530条)
「雨の広告と同一の方法による公告の撤回は、これを知らない者に対しても、そ
の効力を有する。」(第1項)、「広告の撤回は、前の広告と異なる方法によって
も、することができる。ただし、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その
効力を有する。」(第2項)
改正前は、「懸賞広告の撤回」として530条のみが設けられていましたが、撤
回の可否について、第529条の2、第529条の3が新設されたため、第530
条は撤回の方法について規定しています。
そして、改正前は、前の広告と同一の方法による撤回を原則としていましたが、
改正法は、前の広告と異なる方法も許容したうえで、効果が違うものとして規定し
ました。
―契約の効力
ア 同時履行の抗弁権(第533条)
改正法は、「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行
に代わる損害賠償の債務の履行を含む)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒
むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りではない。」
として、( )内の文言を付加しました。
これは、債務の履行に代わる損害賠償に転化した場合にも、同時履行の抗弁権は
失われないとされてきた解釈を明文化したものです。
イ 改正前の第534条及び第535条の削除
改正前の第534条は、特定物及び不特定物であっても特定後については、危険
負担につき債権者主義をとっていましたが、買主に過大な負担を負わせ、取引の公
平性の点で問題があるとされていました。
そこで、改正法では、債権者主義を廃し、特定物、不特定物を問わず、債務者主
義を採用しました。それにより、危険負担については、第536条(債務者の危険
負担等)によることとなりました。
ウ 債務者の危険負担等(第536条)
「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することが
できなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」(第1
項)
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったと
きは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務
者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還し
なければならない。」(第2項)
改正前の前2条が削除されて債務者主義に統一されるとともに、従来は、債務者
に帰責性がある場合は解除、債務者内帰責性がない場合には危険負担とされていま
したが、改正法は、債務者の帰責性を問うことなく解除を認めることになりました
ので、解除と危険負担が併存することになりました。
そして、危険負担の効果は、反対給付債務の消滅ではなく、反対給付の履行を拒
絶できるということになりました。
エ 第三者のためにする契約(第537条)
改正法は、第三者のためにする契約につき、第537条第2項として、「前項の
契約は、その成立の時に第三者が現に存在しない場合又は第三者が特定していない
場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。」とする規定を新設し、判
例法理を明文化しました。
改正前の第2項は、改正後の第3項となっています。
オ 第三者の権利の確定(第538条)
改正法は、「前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三
者に対する債務を履行しない場合には、同条第1項の契約の相手方は、その第三者
の承諾を得なければ、契約を解除することができない。」とする第2項を新設しま
した。
これは、諾約者に債務不履行がある場合に要約者が第三者の承諾なしに契約を解
除することができるかにつき、通説の立場をとるとしたものです。
なお、契約に無効・取消事由がある場合については、第三者の受益の意思表示後
も、契約当事者は契約の無効・取消を主張できると解されています。
―契約上の地位の移転
第3款として、一条からなる「契約上地位の移転」と名された款が新設されまし
た。
「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした
場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、
その第三者に移転する。」(第539条の2)
―契約の解除
ア 催告による解除(第541条)
改正前の第541条の標題は「履行遅滞等による解除権」でしたが、改正法は、
改正前の条文に、「ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契
約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」とする
ただし書きを付加し、判例法理を明文化しました。
イ 催告によらない解除(第542条)
改正法第1項は、無催告で全部解除ができる場合を、債務の全部の履行不能(第
1号)、債務の全部の履行拒絶(第2号)、債務の一部履行不能・一部履行拒絶に
よる目的不達成(第3号)、定期行為(第4号)、その他(第5号)としました。
第4号は、改正前の第542条に対応するものです。
第2項は、契約の一部解除ができる場合として、債務の一部の履行不能(第1号)、
債務の一部の履行拒絶(第2号)を挙げています。
ウ 債権者の責めに帰すべき事由による場合(543条)
改正法は、「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるとき
は、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。」とする規
定を新設しました。
エ 解除の効果(第545条)
解除により、各当事者は原状回復義務を負いますが(第1項)、改正法は、改正
前の第3項を第4項とし、第3項として「第一項本文の場合において、金銭以外の
物を返還するときは、その受領の時以降に生じた果実をも返還しなければならない。」
との規定を新設しました。
オ 解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅(第548条)
改正法は、改正前の第548条第2項を削除し、本文に、「ただし、解除権を有
する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。」との
ただし書きを付加しました。
―定型約款
改正法は、「第5款 定型約款」を新設しました。
定型約款の合意(第548条の2)、定型約款の内容の表示(548条の3)、定
型約款の変更(第548条の4)の3か条からなっています。
従前も約款を使用した取引等が行われていましたが、新たに款を追加して規定し、
明確化しました。
「定型約款」とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその
特定の者により準備された条項の総体をいう」と定義され、「定型取引」は、「ある
特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一
部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう」とされます(第54
8条の2、第1項)。