民法(債権法)改正の要点4


 

  

  10 債権

   ⑴ 総則―債権の効力―債権者代位権・詐害行為取消権

    ア 債権者代位権の要件(第423条)

      改正法第423条第1項は、「債権者は、事故の債権を保全するため必要があると
     きは、債務者に属する権利(以下、「被代位権利」という。)を行使することができ
     る。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限り
     でない。」として、改正前の規定に下線部分を付加しました。
      第2項は、「債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使する
     ことができない。ただし、保存行為は、この限りでない。」とし、(裁判上の代位に
     よらなければ、前項の権利を行使することができない。」としていたものが改められ
     ました。
      裁判上の代位の許可の制度はその利用例が極めて少ないことと、民事保全手続の活
     用によって代替可能であることによるとされています。
      第3項に、「債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないもので
     あるときは、被代位権利を行使することができない。」との規定が新設されました。
      債権者代位権が強制執行を前提とする責任財産保全の制度であることから、自然債
     務など強制執行によって実現できない債権については代位権が認められないことを明
     文化しました。

    イ 代位権行使の範囲(第423条の2)

      改正法は、第423条の2として、「債権者は、被代位権利を行使する場合におい
     て、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被
     代位権利を行使することができる。」との規定を新設し、判例の法理を明文化しまし
     た。

    ウ 債権者根の支払又は引渡し(第423条の3)

      改正法の第423条の3として、「債権者は、被代位権利を行使する場合において、
     被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に
     対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合
     において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、
     これによって消滅する。」との規定が新設されました。

    エ 相手方の抗弁(第423条の4)

      改正法は、「債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主
     張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。」との規定を新
     設しました。
      これも、判例法理を明文化したものにとどまります。

    オ 債務者の取立てその他の処分の権限等(第423条の5)

      改正法では、「債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位
     権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合におい
     ては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられな
     い。」との規定が新設されました。
      債権者代位権が行使された場合について、判例は、債務者が、代位債権者の権利行
     使について通知を受けるか、又は代位債権者の権利行使を了知したときは、もはや債
     務者独自の訴えの提起はできず、また権利の処分もできないとしていました。
      しかし、債権者代位権にそのような強い効果が付与されることには批判もあり、責
     任財産の保全、すなわち債務者が権利行使しないことにより責任財産が減少すること
     を防ぐための制度であるとの本則に立ち戻るものとして、判例の立場を変更していま
     す。

    カ 被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知(第423条の6)

      改正法は、「債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、
     債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。」との規定を新設しました。
      債権者代位訴訟の判決の効力は債務者にも及ぶことから(民事訴訟法第115条第
     1項第2号)、債務者に関与の機会を保障するために、代位債権者に債務者に対する
     訴訟告知の義務を課したものです。

    キ 登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権(第423条の7)

      改正法は、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗するこ
     とができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又
     は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使するこ
     とができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。」との規定を新設しま
     した。
      債権者代位権は、基本的には金銭債権の保全を目的とする制度ですが、金銭債権以
     外の債権の保全を目的として認められることがあります。
      本条は、責任財産の保全を目的としない、すなわち債務者の無資力を要件としない
     債権者代位権(転用型債権者代位権)のうち、不動産登記についての判例法理を明文
     化するとともに、登記、登録が対抗要件とされている全ての場合を規律するものとな
     っています。

    ク 詐害行為取消請求(第424条)

      改正法第424条第1項は、「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってし
     た行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を
     受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者
     を害することを知らなかったときは、この限りではない。」と改正しました。
      旧規定の「法律行為」を「行為」に改め、弁済や債務承認なども詐害行為の対象と
     なることを明確にし、転得者については、別途規定することとしています。
      また、旧規定で「債権者を害すべき事実を知らなかったとき」とされていたのが、
     上記のとおりに改められています。
      改正法第2項では、第1項と同様、「法律行為」を「行為」に改めています。
      同第3項に、「債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて
     生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」と
     いう。)をすることができる。」との規定を新設しました。
      また、第4項も新設し、「債権者は、その債権が強制執行により実現することので
     きないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。」としました。

    ケ 詐害行為取消権の要件について、改正法は、その明確化とともに破産法の否認権と
     の整合性を有するものとして、「相当の対価を得てした財産の処分行為の特則」(第
     424条の2)、「特定の債権者に対する担保の供与等の特則」(第424条の3)、
     「過大な代物弁済等の特則」(第424条の4)を新設し、転得者に対する詐害行為
     取消請求(第424条の5)については別途規定しました。

    コ 改正法は、詐害行為取消権尾行使の方法等として、「財産の返還又は価額の償還の
     請求」(第424条の6)、「被告及び訴訟告知」(第424条の7)、「詐害行為
     の取消の範囲」(第424条の8)、「債権者への支払又は引渡し」(第424条の
     9)を新設しました。
      基本は、判例法理を明文化したものですが、従前の解釈と異なり詐害行為取消の効
     果が債務者に及ぶ(第425条)ものとされたことから、債務者に手続の保障として、
     詐害行為取消訴訟の提起後遅滞なく債務者に訴訟告知しなければならないとしていま
     す。

    サ 認容判決の効力が及ぶ範囲(第425条)

      改正前の第425条は、「前条の規定による取消しは、全ての債権者の利益のため
     にその効力を生ずる。」と規定していましたが、改正法は、「詐害行為取消請求を認
     容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。」と
     改正しました。
      判例は、詐害行為取消権の効果は債務者に及ばないとしていましたが、逸失財産の
     債務者への返還が原則とされることとの間に矛盾があるとされていました。
      改正法は、詐害行為取消権の効果が債務者に及ぶとしたうえで、債務者の手続保障
     として取消権者に債務者に対する訴訟告知を義務づけました(第424条の7第2項)。

    ス 詐害行為取消権の期間の制限(第426条)
      
      改正法は、「詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知っ
     て行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することがで
     きない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。」としました。
      改正前は、時効期間とし、長期については行為の時から20年としていましたが、
     出訴期間に変更し、長期につき短縮して法律関係の安定を図っています。
      併せて、破産法の否認権の行使期間も改正されています。

   ⑵ 総則―多数当事者の債権及び債務
  
    ア 不可分債権(第428条)
    
      改正前は当事者の意思表示による不可分債権を認めていましたが、改正法は、「次
     款(連帯債権)の規定(第433条及び435条の規定を除く。)は、債権の目的が
     その性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する。」
     とし、債権の目的がその性質上不可分である場合に限定しました。
      改正前の、当事者の意思表示により不可分とされていたものは、新設された連帯債
     権のところで扱われることになっています。

    イ 不可分債権者の一人との間の更改又は免除(第429条)

      改正法第429条は、改正前の同条第1項を残し、「前項に規定する場合のほか、
     不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の不可分債権者に対し
     てその効力を生じない」とする第2条を削除しました。
      第2項の削除は、相対効の原則を規定する第435条の2が準用されることとなり、
     不要となったためです。

    ウ 不可分債務(第430条)

      改正法は、不可分債務を債務の目的が性質上不可分である場合に限定しました。
      また、第440条(混同)を除き連帯債務の規定が準用されることから、例外的に
     更改と相殺が絶対的効力事由となりました。

    エ 連帯債権者による履行の請求等(第432条)
   
      改正法は、連帯債権についての規定を第3款として新設しました。
      第432条は、「債権の目的がその性質上不可分である場合において、法令の規定
     又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全
     ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債
     権者のために各債権者に対して履行することができる。」と規定しました。

    オ 連帯債権についての新設規定

      連帯債権については、前条の他、連帯債権者の一人との間の更改又は免除(第43
     3条)、連帯債権者の一人との間の相殺(第434条)、連帯債権者の一人との間の
     混同(第435条)が絶対効とされ、それ以外の場合については相対効とされていま
     す(相対効の原則(第435条の2))。

    カ 連帯債務者に対する履行の請求(第436条) 
  
      改正法第436条は、「債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の
     規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、
     その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、
     全部又は一部の履行を請求することができる。」とし、改正前の第432条を下線部
     のように改変しました。
      また、「連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、そ
     の効力を生ずる。」としていた改正前の第434条が削除され、請求は相対効とされ
     ることになりました。

    キ 連帯債務者の一人についての法律行為の無効等(第437条―改正前の第433条)、
     連帯債務者の一人との間の更改(第438条―改正前の第435条)、連帯債務者の
     一人との間の混同(第440条―改正前の第438条)については、第438条で「
     すべて」を「全て」に表記を変更している以外変更はありません。
      連帯債務者の一人による相殺等(第439条―改正前オ第436条)については、
     第1項は、「すべて」を「全て」に表記を変更しているのみで変更はありません。
      第2項は、「前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債
     務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒
     むことができる。」とし、改正前に行われていた解釈を明文化しました。

    ク 相対効の原則(第441条)

      改正法第441条は、「第438条、第439条第1項及び前条に規定する場合を
     除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を
     生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、
     当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。」としています。
      改正前は、相対効を原則としつつ、多くの絶対効を例外としていましたが、改正法
     では相対効の原則をより強めています。改正前に絶対効とされた、ⅰ履行の請求、ⅱ
     免除、ⅲ時効の完成、が相対効とされました(それらを絶対効としていた規定を削除)。
      なお、ただし書により、特約によって絶対効とすることができ、債権者としては契
     約締結に際し検討が必要となります。

    ケ 連帯債務者間の求償権(第442条)

      改正法第442条第1項は、連帯債務者の一人が一部弁済した場合に、自己の負担
     部分を超えるかどうかにかかわらず負担割合に応じて求償できるものとしました。こ
     れは、連帯債務については判例法理を明文化したものであり、不真正連帯債務につい
     ては判例法理の変更となっています。
      なお、求償権の範囲につき、支出した財産額が共同の免責を得た額を超える場合に
     は、免責を得た額に制限されます。

    コ 通知を怠った連帯債務者の求償の制限(第443条)
  
      改正法第443条は、改正前の同条が他の債権者の存在について善意・悪意を問わ
     なかったところ、「他の連帯債務者があることを知りながら」と規定し、他の連帯債
     務者の存在について悪意である場合に限定しました。
      また、第1項では、事前通知の内容を「共同の免責を得ること」として、改正前の
     「債権者から履行の請求を受けたこと」から改変しています。
      なお、改正前の第2項につき、先に弁済等をした連帯債務者が事後の通知をせず、
     その後に弁済等をした連帯債務者が事前の通知をしなかった場合、事前通知を怠った
     以上後の連帯債務者は第2項の保護を受けないとする最判がありますが、改正法にお
     いては解釈に委ねられるようです。

    サ 償還をする資力のない者の負担部分の分担(第444条)

      改正法は、新設された第2項で「前項に規定する場合において、求償者及び他の資
     力のある者がいずれも負担部分を有しない者であるときは、その償還をすることがで
     きない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、等しい割合で分割して負担する。」
     と規定し、判例法理を明文化しました。
      また、同じく新設された第3項で、分担を請求できないこととなる求償者の過失が、
     「償還を受けることができないこと」についてであると明記しました。

    シ 連帯債務者の一人との間の免除等と求償権(第445条)

      改正法第445条は、「連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ、又は連帯債
     務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その一人の
     連帯債務者に対し、第442条第1項の求償権を行使することができる。」とし、免
     除と時効の完成につき相対効としました。これらにつき絶対効としていた改正前の第
     437条、第439条は削除されています。
      また、改正前の第445条は、「連帯の免除と弁済する資力のないものの負担部分
     の分担」について規定していましたが、債権者の意思に反するとの批判があり、削除
     されています。

  


 

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