平成29年6月2日に民法の一部を改正する法律が公布され、その大部分が令和2年4月1日
に施行されます。
それにより、交通事故による損害賠償についても、影響が及ぶこととなりました。
改正によって変更するのは、①法定利率―遅延損害金、②中間利息控除、③消滅時効、④時効
の中断・停止から更新・完成猶予へ、⑤不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺、とい
った規定です。
⑴ 法定利率
これまで民事法定利率は年5%の固定制が採用されていましたが、市中金利との乖離
を是正するとともに債権管理の負担を考慮して、改正民法施行当初の法定利率を年3%
とし、その後は3年ごとに利率の見直しを行う緩やかな変動制が採用されました(40
4条1~5項)。
適用利率については、その利息が生じた最初の時点における法定利率により(同条1
項)、一度利率が定まれば、その後に法定利率に変動があっても連動しません。
ア 遅延損害金
金銭債務の不履行に係る遅延損害金は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点
における法定利率によって定める」(改正法419条1項)とされます。
不法行為に基づく損害賠償請求権については、不法行為時に発生し、同時に遅滞に
陥るとされていますので(判例・通説)、交通事故に基づく遅延損害金算定の場合の
利率は、交通事故発生時の法定利率が適用されることになります。
そして、遅延損害金についても、利率が一旦定まれば、その後利率が変動すること
はありません。
イ 中間利息控除
改正法417条の2は「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定
める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、そ
の損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする」としました。
交通事故については、事故時の法定利率を用いることになり、逸失利益を算定する
場合(死亡、後遺障害)の中間利息控除に用いられる利率の基準時は不法行為時とさ
れています。
したがって、法定利率が5%から3%になる(当面)ことにより、令和2年4月1
日以降の事故については、それ以前の事故の場合に比して、逸失利益の算定額が増額
することになります。
逸失利益が生じる被害者については、従前よりも逸失利益の額が多くなるという利
益を受けることになります。
⑵ 消滅時効
改正法は、短期消滅時効に関し、現行の消滅時効股間の他に主観的起算点の消滅時効
期間を5年間とする規定を新設し、長期消滅時効期間について、判例・通説を否定し、
消滅時効であることを明らかにしました。
なお、時効障害事由についても再編し、時効の中断・停止から更新・完成猶予と表現
を改めています。
ア 短期消滅時効
交通事故の損害賠償請求は、「不法行為に基づく」損害賠償請求であるところ、改
正法は、現行法と同様に「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時か
ら5年(主観的起算点)で時効消滅する」としつつ(724条)、生命又は身体の侵
害による損害賠償請求権の消滅時効については5年間とする規定を新設しました(7
24条の2)。
イ 長期消滅時効
従来の通説判例は、20年の期間につき除斥期間(中段・停止がなく、当事者の援
用も不要)としていましたが、改正法は、「次に掲げる場合には、時効によって消滅
する」として「不法行為の時から二十年間行使しないとき」を挙げています。
これにより、長期の権利消滅期間についても、不法行為の時(客観的起算点)から
20年で時効により消滅することを明らかにしました。
したがって、長期20年の期間が問題になる場合も、時効の「更新」、「完成猶予」
や信義則・権利濫用の理論の適用があることとなりました。
ウ 時効障害事由
改正法では、これまで時効の「中断」、「停止」とされてきた時効障害を、それぞ
れ「更新」、「完成猶予」として、その効果を解りやすく表現するとともに、整理し、
再構成しています。
また、時効の「完成猶予」として、新たに「協議による事項完成猶予」と設けてい
ます。
「完成猶予」は、権利者が権利の上に眠らずに権利行使をしたと見られる場合をい
います。
「更新」は、確かに権利が存在すると認められる場合となります。
⑶ 相殺
不法行為に基づく債権を受働債権とする相殺についても改正がなされました。
これまでは、「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって
債権者に対抗できない」と規定し、そのような相殺を一律に禁止していました。
改正法509条は、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」と「人の生命又
は身体の侵害による損害賠償の債務」を受働債権とする相殺に限定しました。
それにより、物損同士の事故の場合には、一方当事者の意思表示により相殺が可能と
なりました。