離婚によって、夫婦の同居、協力及び扶助義務がなくなり、新たに離婚の効果として、身分上の
効果と財産上の効果が生じます。
⑴ 身分上の効果
ア 再婚の自由
再婚が自由になります。再婚については、未成年者であっても父母の同意は不要です。
但し、女性の場合、離婚した日から起算して100日を経過しなければ再婚できません
(改正法の施行日である平成28年6月7日以後に婚姻の届出がされたものに適用されて
います)。
改正法は、再婚禁止期間の適用が除外される場合について、「前婚の解消又は取消しの
時に懐胎していなかった場合」、「前婚の解消又は取消しの後に出産した場合」と明確に
しました(民法733条2項)。
また、再婚禁止期間内の婚姻の届出には、医師の「民法733条第2項に該当する旨の
証明書」の添付が必要となっています。
ただし、前婚の夫と再婚する場合など従前も証明書なしに受理されていた類型について
は、証明書がなくても受理される扱いとなっています。
イ 姻族関係の終了
姻族関係は、離婚によって終了しますが(728条1項)、当然終了することにおいて、
意思表示を必要とする死亡による解消の場合と異なります(同2項)。
ウ 復氏・復籍
① 復氏
婚姻により氏を改めた人は、離婚によって婚姻前の氏に戻ります(767条1項、
771条)。
但し、離婚の日から3ケ月以内に「婚氏続称の届」をすることにより婚姻時の氏を
名乗ることができます(767条2項)。
なお、期間を徒過した後に婚姻時の氏を名乗ろうとする場合は、「氏の変更許可の
申立て」を家庭裁判所にすることになりますが、やむを得ない事由が必要とされます
(戸籍法107条1項)。
② 復籍
離婚によって婚姻前の氏に戻った人は、婚姻前の戸籍に戻るのが原則ですが(戸籍
法19条1項)、新戸籍となる場合があります。
ⅰ 婚姻前の戸籍が除籍となっている場合(同但し書)
ⅱ 婚姻前の氏に戻った人が新戸籍編製の申出をした場合(同)
ⅲ 婚氏続称の届を行った場合(3項)
③ 子の氏と籍
父母が離婚をしても、子の氏と戸籍に変動はありません。婚姻により氏を改めた人
が親権者として子を自分の戸籍に入れる場合は、家庭裁判所から「子の氏の変更許可」
を得て、戸籍法の定める届出をする必要があります(民法791条)。
エ 親権
離婚によって、親権者と定められた者が親権を単独行使します(民法819条1、2、
5項)。
子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、親権者を他の一方に変更
することができます(同6項)
オ 監護
子を養育監護する権限は親権に包含されていますが、時に、別に監護者が必要となる場
合があり、協議離婚では父母の協議で、協議が調わないときは家庭裁判所が、裁判離婚で
は判決によって、必要な事項を定めることになります(766条、771条)。
⑵ 財産上の効果
ア 夫婦財産関係の解消
離婚により、婚姻の効果としての夫婦財産契約(民法756条)、(法定財産制である)
婚姻費用の分担(760条)、日常家事債務の連帯責任(761条)などの夫婦の財産関
係は消滅します。
イ 財産分与
財産分与とは、婚姻共同生活中に夫婦が協力して形成した財産を、離婚に際して、それ
ぞれの協力の程度において清算分配することをいいます(768条)。
財産分与には、①夫婦財産関係の清算、②離婚後の扶養、③離婚による慰謝料を含むと
するのが立法者意思であり、これを認めた最高裁判決(昭和46年7月23日)もありま
す。
しかし、社会状況や就業環境の変化、分与割合を原則2分の1とする実務の趨勢からす
ると、現在では、財産関係の清算が中心であって、公平性・妥当性の観点や名目への配慮
などから、例外的に、扶養や慰謝料の趣旨を加味しているといえるでしょう。
ⅰ 清算の対象
清算の対象となる財産は、婚姻後に夫婦が協力して形成し、または維持した共同財産
です。名義上夫婦の一方の所有となっていても、形成・維持に他方の協力があれば、夫
婦の共有に属するとされています。
他方、婚姻前の財産や、相続した財産等は特有財産であり、(その維持に協力があった
場合を除き)清算の対象となりません。
対象となる財産の特定時は、離婚時か別居時かが問題となりますが、清算の趣旨から
すると、共同生活が終わり、協力関係もなくなった別居時とするのが合理的でしょう。
ⅱ 清算の基準
清算は、当事者の協議により、協議が不調、不能のときは家庭裁判所での調停または
審判で、離婚訴訟において付帯請求されたときは判決で決定されることになりますが、
家庭裁判所は「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮し
て」定めるとされています(3項)。
現在、清算割合は、原則として2分の1とされていますが、一方当事者の特別な能力
や努力によって財産形成がなされた場合等については、その例外として判断されていま
す。
ⅲ 財産分与請求権の行使期間
財産分与の請求は、離婚後でも行使できますが、離婚から2年経過すると消滅します
(2項但書、除斥期間)。
ⅳ その他
① 退職金
退職金は、給与の後払いの性質がありますので、共同生活に対応する部分につい
ては精算の対象足り得ます。
しかし、支給の有無が不明確な場合や遠い将来の場合については否定的に解され
ています。
② 年金分割制度
厚生年金及び共済年金については、年金分割制度が設けられています(国民年金、
厚生年金基金は対象となりません)。
合意分割制度と3号分割制度があり、請求期限は、原則として、離婚等をした日
の翌日から2年以内です。
「合意分割」は、平成19年4月1日以後に離婚等をし、婚姻期間中の厚生年金
(共済年金)記録があり、当事者双方の合意又は裁判により按分割合を定め、請求
期間内に請求があった場合に分割がなされます。分割対象期間は平成19年4月1
日以前も含みます。
「3号分割」は、平成20年5月1日以後に離婚等をした国民年金の第3号被保
険者(民間会社勤務者や公務員に扶養されている配偶者)を請求者として、平成20
年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間に係る相手方の厚生年金記録の2
分の1について分割請求を認めるものです。
③ 財産分与と税金
財産分与については、通常贈与税はかかりませんが、過大と評価される部分や離
婚が贈与税や相続税を免脱する目的で行われた場合は全ての財産に贈与税がかかり
ます。
また、分与した財産が土地、建物の場合、分与者に譲渡所得課税がなされますの
で、注意が必要です。
ウ 慰謝料
ⅰ 離婚の際の慰謝料
ここでの慰謝料は、離婚により被る精神的な苦痛に対して支払われる金員をいい、離
婚についての無責配偶者から婚姻の破綻原因を作った有責配偶者に対する請求として認
められるものです。
離婚の際の慰謝料は、離婚そのものによる慰謝料と個別の原因に基づく慰謝料が区別
されます(この点は、時効に関わります)。
なお、離婚成立後に請求する場合、法的手続きとしては、不法行為に基づく損害賠償
請求として、民事調停、民事訴訟により解決されることになります。
最判昭和46年7月23日は、「財産分与として損害賠償の要素も含めて給付がなさ
れた場合には、原則としてもはや重ねて慰謝料の請求をすることはできないが財産分与
がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨と解されないか、その額および方法
において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときに
は、別個に不法行為を理由として離婚による慰謝料を請求することを妨げられない」と
しています。
ⅱ 慰謝料の基準
離婚の際の慰謝料については、交通事故の場合などと異なり、明確な基準が設けられ
ているわけではありませんので、有責行為の内容や程度、請求者側の諸事情、被請求者
側の諸事情等を総合的に考慮して決められることになります。
ⅲ 離婚に係る慰謝料請求権の時効
個別の不法行為を理由とする慰謝料請求権の消滅時効は、他方配偶者の不法行為と損
害の発生を知ったときから3年となりますが、離婚そのものを理由とする慰謝料請求権
の時効の起算点について、判例は、離婚が成立したときとしています。
最判昭和46年7月23日―「本件慰謝料請求は、YとXとの間の婚姻関係の破綻を生
ずる原因となったYの虐待等、Xの身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由
とするものではなく、Xにおいて、Yの有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を
被ったことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損
害は、離婚が成立して初めて評価されるものであるから、個別の違法行為がありまたは
婚姻関係が客観的に破綻したとしても、婚姻の成否が未だ確定しない間であるのに右の
損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる
判決が確定するなど、離婚が成立した時にはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が
不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったことになるものと解する
のが相当である」