特定調停は、「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」に基づく民事調停の一
種で、裁判所が特定債務者と債権者その他の利害関係人との話し合いを仲介する手続です。債務者
本人の申立てを想定しており、費用も低廉となっています。
多額の負債を有する者が破産手続をとることなしに債務返済の負担を軽減することができる制度
として利用されてきましたが、グレーゾーン金利が廃止となって、申立件数としては減少していま
す。
⑴ 特定調停、特定債務者
「特定調停」とは、特定債務者の経済的再生に資するため、債権者その他の利害関係人との
間で、金銭債務の内容の変更、担保関係の変更その他の金銭債務に係る利害関係の調整に係る
調停であり、申立の際に特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述があったもので
す(法2条3項、3条1項、2項)。
ここに「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあ
るもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であ
るもの又は債務超過に陥るおそれのある法人をいいます(法2条1項)。
⑵ 特定調停の特徴
従前、民事調停として「債務弁済協定調停」が利用されてきましたが、その不十分な点を改
善し、債務整理に特化した特別法として制定されたのが特定調停法であり、次のような特徴が
あります。
ア 申立人は、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資
料及び関係権利者の一覧表を提出しなければなりません(3条3項)。
イ 事件の一括処理を容易にするための措置として、①移送等の要件の緩和(4条)、②同
一申立人の複数の特定調停事件の併合規定の新設(6条)、③利害関係人の参加要件の緩
和(9条)がなされています。
ウ 民事執行手続の停止につき、停止の要件として、「特定調停の円滑な進行を妨げるおそ
れのあるとき」を追加し、無担保で停止する余地を認めるなど、一般の執行停止よりも緩
やかな要件としています(9条)。
エ 特定調停を行う民事調停委員に専門的な知識経験を有する者を指定するものとしました
(8条)。
オ 調停委員会は、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求め
ることができるとし、正当な理由のない不提出には10万円以下の過料に処すこととしま
した(12条、24条)
カ 特定調停の成立を容易にするための措置として、①遠隔地の当事者が出頭できない場合
などに、書面による調停条項案の受諾の制度(16条)、②調停委員会が調停条項を定め
る制度(17条)が設けられました。
ただし、前者については、裁判所の事務負担の増大から、後者についても、いわゆる
17条決定(民事調停法17条)による方が簡便であるとして、いずれもあまり利用され
なくなっているようです。
キ 調停条項案や調停条項、特定調停に代わる決定は、特定債務者の経済的再生に資すると
の観点から、公正かつ妥当で経済的合理性がなければなりません(15条、17条2項、
20条)。
⑶ 特定調停のメリット、デメリット
特定調停には次のようなメリット、デメリットがありますので、それらを勘案したうえで、
特定調停制度を利用するか否か判断する必要があります。
ア メリット
・費用が低廉であり、本人申立ても十分できる。
・家、車のローン等を除外して行うことができる。
・調停委員が仲介するので、債権者と直接交渉する必要がない。
・手続が比較的早く、解決もそれなりに早い。
イ デメリット
・裁判所に出頭する必要がある。
・調停成立までの未払い利息、遅延損害金が返済対象となるのが通常。
・過払い金がある場合は、別の手続で回収しなければならない。
・調停調書には強制執行力があるので、返済が滞ると強制執行される。
・信用情報登録機関に登録される。