平成23年に改正された民法766条第1項は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護を
すべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護
について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しな
ければならない」として、面会交流及び養育費の分担を明文化し、子の利益を最も優先すべきことを
明確にしました。
当該改正を反映し、離婚届にも、任意の記載事項ですが、「親子の面会方法」や「養育費の分担」
の取り決めを記載する欄が設けられています。
⑴ 養育費
ア 概略
養育費とは、非監護親から監護親に支払うべき未成熟子の養育に要する費用をいいます。
養育費の支払義務は、夫婦間の扶養義務と同じく生活保持義務(自己の生活を保持する
と同程度の生活を保持させる義務)とされており、その他の親族間の生活扶助義務(自己
の生活を犠牲にしない限度で被扶養者に対し最低限の生活扶助をする義務)よりも重い義
務とされています。
親は未成熟子を扶養する義務を負い、未成熟子は親に対して扶養請求権を有しています
が(民法877条1項)、養育費は、離婚に際し、未成熟子の扶養に必要な費用の分担を
監護親から非監護親への請求として認めたものといえます。
したがって、養育費の定めがあっても扶養が必要な状態にあるときには、子からの扶養
請求が認められることになります。
養育費の確保については、民法の該当条文の改正のほか種々の施策がなされ、国の委託
による養育費相談支援センターも設けられています。
母子及び父子並びに寡婦福祉法第5条1項は、「母子家庭等の児童の親は、当該児童が
心身ともに健やかに育成されるよう、当該児童の養育に必要な費用の負担その他当該児童
についての扶養義務を履行するように努めなければならない」とし、同2項で、「母子家
庭等の児童の親は、当該児童が心身ともに健やかに育成されるよう、当該児童を監督しな
い親の当該児童についての扶養義務の履行を確保するように努めなければならない」とし
て、養育費の履行の確保について努力義務を課しています。
イ 養育費の請求期間、額、算定方法等
養育費の請求は、原則として20歳までですが、子の状況、家庭環境その他の事情によ
っては大学卒業まで認められることがあります。
養育費は月払いが原則です。もともと養育費は月々に必要とされる子供の生活費ですし、
長期にわたることが多いところ、将来については、子の死亡や親の経済状況の変動などの
不測の事態が生じる可能性があることなどが理由とされています。
合意による一括払いは可能ですが、贈与とされる虞もありますので注意が必要です。ど
うしてもということであれば、養育信託にすることも一つの方法です。
養育費は、監護者(権利者)と非監護者(義務者)の協議によって決まるのが原則で、
月2万円~5万円の範囲で決まることが多いようです。
協議が調わないときには、従前は、生活保護方式、労研方式、標準生計費方式等を基に
裁判所の裁量により算定されてきましたが、平成15年ころから、「養育費・婚姻費用算
定表」が利用されています。
これは、権利者、義務者双方の収入金額を基に、子が義務者と同居しているとして、子
のために費やされるはずの生活費を算定し、権利者、義務者の収入割合に応じて按分する
ことにより義務者が支払うべき養育費を定めるという方式です。
なお、近時、日弁連から、新算定方式が提唱されています。
事情の変更があり、それが予測し得ないものであり、やむを得ないときなどには、養育
費の額の増減が認められることがあります
ウ 養育費の請求及び時効等
子の監護中はいつでも養育費の請求が可能ですが、過去の分を遡って請求するについて
は、養育費の始期の問題として考えられており、離婚時、請求時とする例もありますが、
家裁での実情としては調停申立時が多くなっています。
他方、具体的な金額の取り決めがなされた場合については、養育費の場合、原則として
定期金債権となりますので、5年間の短期消滅時効にかかることになります(民法169
条)。
調停、審判等による場合、過去の養育費の消滅時効は10年となりますが、将来の養育
費分については、5年間の短期消滅時効のままとなります(同法174条の2)。同条2
項で、確定の時に弁済期の到来していない債権については適用しないとしているからです。
エ 履行確保制度
家事債務は、債権者の生活・生存に大きな影響をもつこと、少額給付が長期間にわたる
ことが多いこと、強制執行手続利用の煩雑さと費用負担に耐え得ない場合が少なくないこ
となどから、家庭裁判所が、家事審判、家事調停等によって定めた義務の履行をはかる制
度が設けられています。そのうち、③~⑤は、強制執行手続の特則となっています。
なお、家事審判法15条の7で定められていた金銭の寄託制度は、実務上利用されるこ
とが少なく、家事事件手続法では置かれていません。
① 義務の履行状況の調査及び履行勧告(家事事件手続法289条)
債権者の申立てにより、家庭裁判所が調査の上、債務者に対し、義務を履行するよ
うに勧告をしてくれますが、申立てに方式はなく、電話でも可とするところもあるよ
うです。費用もかかりません。
② 義務履行の命令(同法290条)
債権者の申立てにより、家庭裁判所が、債務者に対し、相当の期間を定めて履行す
るように命令を出します。正当な理由なく従わないときは10万円以下の過料に処さ
れます。
財産上の給付義務に限られ、申立てにかかる印紙代は500円です。
③ 扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特則(民執法151条の2)
扶養義務等に係る確定期限のある定期金債権の一部に不履行があるときは、確定期
限が到来していないものについても、債権執行を開始することができるとされていま
す。
特則として、一度の申立てで、将来分についても給与等を差し押さえることができ
ることになっています。
④ 差押禁止債権(同法152条)
給与等については、原則、その支払い期に受けるべき給付の四分の三に相当する部
分は差押えてはならないとされているところ、扶養義務等に係る定期金債権について
は、二分の一とされています。つまり、特則として、給与等の二分の一を差し押さえ
ることができます。
⑤ 扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制(同法167条の15)
金銭債権(金銭の支払いを目的とする債権)は、原則として間接強制の手続をとる
ことはできませんが、夫婦・親子その他の親族関係から生じる扶養に関する権利につ
いては、間接強制の方法による強制執行手続が認められています。
⑵ 面会交流権
面会交流権とは、離婚後又は別居中に、未成年の子を監護・養育していない親がその子ど
もと面会し、電話や手紙等で交流する権利をいいます。
以前は、「面接交渉権」といわれていたのですが、改正された民法766条に「面会及び
その他の交流」と規定され、「面会交流権」として定着しています。
ア 権利性・法的性質
面会交流の権利性や法的性質については、古くから様々な見解が錯綜していますが、民
法その他の法律に明文を欠いていたものの、昭和39年の審判で、親の権利として、また
民法766条の監護処分として認められてから、裁判実務において民法766条、家事審
判法9条1項乙類4号を根拠とする運用が定着し、最高裁決定(昭和59年7月6日、平
成12年5月1日)も、権利性には触れることはありませんでしたが、そうした実務を追
認しました。
その後の裁判例の傾向として、積極的に子の利益に副うか否かという観点からの制限的
な判断から、子の利益を害する場合を除いて原則として認容する方向になっています。
日本も批准した「児童の権利に関する条約」や平成23年の改正で「面会交流」が明記
された766条、そして面会交流支援が実施されている現在では、面会交流の権利性を複
合的・相対的に解し、①面会交流の主体的関係を親・子供・国の三者の関係と捉え、②絶
対的な権利ではなく、子の利益を害するときは制限を受ける権利であること、③面会交流
の具体的権利は当事者の合意若しくは家裁の審判により形成されるものである、とする立
場が適合的であると思われます。
なお、「児童の権利に関する条約」は、児童を18歳未満と定義し、面会交流につき、
「締約国は、児童のお最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離
されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を
尊重する」(9条3項)、「締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を
有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母または場合に
より法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善
の利益は、これらの者の基本的な関心事となるものとする」(18条1項)として、面会
交流が児童の権利であること、父母の共同養育責任であることを宣言しています。
イ 面会交流の禁止・制限事由
面接交流が離婚当事者の協議事項として明文化され、子の利益が最優先事項とされたこ
とから、もっぱら子の利益を害する事由によって、禁止・制限されることになろうと思わ
れます。
ⅰ 反社会的・反倫理的行為等
暴力、虐待等の反社会的・反倫理的行為や生活態度
ⅱ 合意違反行為
合意遵守は大前提であり、信頼関係が維持できなければ、子にも弊害が及びます。
ⅲ 非監護親の養育費履行義務の懈怠
正当な理由なく扶養義務を果たさないときは、子どもが望んでいる場合を除いて認
められるべきではないでしょう。
ⅳ 年長子の強固な拒絶
真意である子の拒絶意思を尊重すべきです。
なお、正当な事由がなく合意に反して面会交流を拒絶すると、慰謝料請求をされる可
能性がありますので、その点注意が必要です。
ウ 履行の確保
ⅰ 履行勧告
家庭裁判所から履行勧告をしてもらうことができます。
ⅱ 再調停
履行勧告の効果がなかったときは、再調停を申立てることも可能です。
ⅲ 間接強制
調停、審判での取り決めが履行されない場合は、強制執行手続として間接強制の申
立てができます。
ⅳ 親権者の変更
状況と場合によっては、親権者の変更が認められる場合があり得ます。
エ 間接強制の実現に向けて
強制執行をするには、債務名義(実現されるべき給付請求権の存在と内容を明らかにし、
強制執行を認める一定の格式を有する文書)が必要となりますが、債務名義の内容が一義
的かつ明確でなければならず(義務の特定性)、債務名義が給付条項を対象とするもので
あることから、給付意思が明確に表現されていなければなりません(債務名義性)。
面会交流については、義務の特定性や債務名義性の要件を満たす調停条項や審判条項を
得ておく必要があります。
義務の特定性については、①面会交流の日時または頻度、②各回の面会交流時間の長さ、
③子の引渡の方法等を具体的に定め、債務名義性については、面会を「認める」ではなく
「面会させる」としておくべきです。
ただし、最高裁は、「認める」という文言の有無による債務名義性の認定に拘泥せず、
給付の特定性があれば原則として債務名義性は認められるとしています。
オ 面会交流支援事業
厚生労働省が実施する「母子家庭等就業・自立支援事業」のうち、「母子家庭等就業・
自立支援センター事業」の一つに、相手方に対する感情や葛藤が理由で面会交流を実施で
きない父母に対する支援により、面会交流の円滑な実施を図ることを目的とする「面会交
流支援事業」があります。
・支援内容は、面会交流支援員の配置、事前相談、支援計画の作成、子どもの受け渡しや
付き添い、連絡調整等であり、必要に応じて面会交流場所の斡旋も可能です。
・支援期間は最長1年、実施頻度は月1回までとされています。
・利用については、子どもが概ね15歳未満であること、両親が児童扶養手当を受けてい
るか、または同等の所得水準にあること等の条件が定められています。