2 任意整理


 任意整理は、法人が債務の清算及び再建を目的として行うこともありますが、ここでは、もっぱ
ら個人の消費者を対象とします。
 なお、消費者金融の各社は、平成19年ころからグレーゾーン金利から利息制限法内の金利に変
更していますので、それ以前に借り入れをしていた場合は別として、それ以降になってからの借入
は、原則として、元本が減額となる(あるいは過払い金が生じる)状況はなくなりました。

  ⑴ 任意整理とは

    任意整理とは、債権者との交渉によって返済額や返済方法について合意をし、当該合意に基
   づいて返済をする債務整理の方法です。
    具体的には、利息制限法の金利を超える場合は引き直し計算をし、金利をカットするなどし
   て、元本のみを、3年程度で分割返済するといった合意をすることが通常です。


  ⑵ 任意整理のメリット、デメリット
  
    ア メリット

     ・弁護士が受任した場合、受任通知により取立が停止となります。和解が成立するまでの
      間に、返済原資を準備しておくことも可能となります。

     ・保証人がある場合を除くなど、債権者を選んで任意整理することができます。

     ・グレーゾーン金利の場合は利息の引き直しにより元本が減額となり、場合によっては過
      払い金の返還請求が可能となります。
      しかし、利息制限法の金利での取引では、将来金利のカットと返済期間の長期化にとど
      まることになるでしょう。
    
     ・破産や個人再生と異なり、官報に載ることはありません。

     ・破産と異なり、職業や資格が制限されることはありません。
  
    イ デメリット

     ・債務の減額について大きな期待はできず、また、任意整理に応じない場合があり、必ず
      減額になるとは限りません。

     ・信用情報機関に事故情報が登録され、5~7年ほど新規借入れ等が困難となります。


  ⑶ グレーゾーン金利について

    改正前の貸金業法は、簡略に述べると、登録貸金業者について、①債務者が利息として金銭
   を任意に支払ったこと、②貸付の契約締結後、貸主が借主に対し遅滞なく同法17条所定の書
   面を交付したこと、③弁済の都度、貸主が借主に対し直ちに同法18条所定の書面を交付した
   こと、④出資法に違反しないこと、という条件を満たした場合は、有効な利息の債務の弁済と
   みなすとしていたところ、出資法の上限金利は、利息制限法の金利を大幅に上回っていました。
    出資法の上限金利(超えると罰則あり)と利息制限法の金利の間をグレーゾーンといいます
   が、ほとんどの消費者金融がグレーゾーン金利を金利としていたことから、債務者の金利負担
   は非常に大きなものとなって、多重債務者の著しい増加という社会な問題が起こりました。
    この問題について、最高裁が、書面要件を厳格に解する判決(平成16年2月20日、平成
   17年12月15日)、任意性を厳格に解する判決(平成18年1月13日)を相次いで出し
   たことから、貸金業法の改正や出資法の上限金利の引下げ等の対応策がとられ、その結果、平
   成22年6月18日以降、グレーゾーン金利はなくなりました。
    なお、質屋営業(質屋営業法)に関しては、その特殊性から、グレーゾーン金利について下
   級審の判断が分かれており、最高裁判例も存在しません。


  * ヤミ金融について


  ⑴ ヤミ金融とは、無登録の貸金業者、登録はしていても出資法の制限金利を超える金利で貸付
   をする貸金業者を指します。

    出資法は、金銭の貸付けを行うものが109.5%を超える利率で貸し付けをしたとき、金
   銭の貸付けを行うものが業として20%を超える利率で貸し付けをしたときは、5年以下の懲
   役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科するとしています。また、業と
   して109.5%を超える利率で貸付けをした場合は、更に重い刑事罰を科しています(5条)。

  ⑵ 最高裁平成20年6月10日判決は、山口組五菱会系ヤミ金融グループに係る損害賠償請求
   事件において、「反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が、これによって損害を被るとと
   もに、当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には、同利益については、加害者
   からの不当利得返還請求が許されないだけでなく、被害者からの不法行為に基づく損害賠償請
   求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも、
   上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである」とし
   ました。
    要するに、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求すること
   ができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない」(民
   法708条)とする不法原因給付の趣旨から、①著しい高利で貸し付けた場合、金融業者は元
   本の返還を請求できず、借主は元本についても返還義務がない。②借主から金融業者に対する
   損害賠償請求において、損害額から元本分が減額されず、借主は、支払い済みの元本・利息の
   全額を請求できる、としたものです。
 
    反倫理的な貸付については貸し付けた元本さえも保有させないこととなり、ヤミ金融業者に
   よる不法行為の抑止に大きな力となるものということができます。

    警察庁も、最高裁判決後、ヤミ金融事案の被害者対応マニュアルで、「借りたものは返すべ
   きだ」、「せめて元本くらいは返した方がよい」などの対応をしないようにと注意喚起してい
   ます。
  
  ⑶ 最高裁判決の事案は年利数百%~数千%の利率の事案であるため、「著しい高利」の基準が
   問題として残ります。
    これについては、前述の出資法の制限利率を超える場合が考えられるところですが、大阪高
   裁平成20年7月10日判決は、タクシー運転手が、他の運転手に対し、年利135.18~
   84.49%で貸付をした事案で、84.49%の利率の貸付も含めて、公序良俗に反し消費
   貸借契約自体が無効であるとし、元本を含む金員の返還を命じています。



 

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