4 遺産分割


 遺産分割とは、相続開始後、共同相続人の共有に属した遺産を、共同相続人各人に分配し、帰属
させる手続をいいます。


  ⑴ 遺産分割の基準

    遺産分割は、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状
   態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」行うことになります(民法906条)。
    農業用財産は農業従事者に、営業財産はその従事者に帰属させ、他の相続人には代償を取得
   させるのが相当であり、心身に障がいのある相続人の生活が安定するような分割を考慮する必
   要もあるでしょう。

  ⑵ 遺産分割の態様・方法
   
   ア 全部分割と一部分割

     全部分割は、遺産の全ての分割をするものであり、一部分割は、遺産の一部の分割をして、
    残る遺産を未分割のままとするものです。
     ただし、根本的な解決ではありませんので、相続財産の一部を早急に処分することが必要
    な場合に限って行われるのが望ましいところです。
     一部分割の可否については、条文上明らかではありませんでしたが、改正法(令和元年7
    月1日施行)は、協議により遺産の一部の分割をすることができること、一部の分割の審判
    を申し立てることができることを明文化しました(907条)。

 
   イ 具体的分割方法
     
     具体的な分割方法としては、次の方法があります。

     ⅰ 現物分割

       原則的な方法であり、遺産を現物のまま各相続人に割り当てる方法です。
       土地は甲に、建物は乙に、預金は丙にというように遺産を構成する個々の財産をその
      ままに帰属させることも現物分割となります。

     ⅱ 代償分割

       現物分割が不適当又は不可能な場合に、当該現物を特定の共同相続人に取得させ、他
      の相続人に対する債務を負担させる分割方法です。

     ⅲ 換価分割

       遺産を金銭に換価し、それを各相続人に分割する方法です。

     ⅳ 共有分割

       遺産の全部または一部を、相続人全員あるいは一部の物の共有とする分割方法です。

     ⅴ 用益権の設定

       遺産が不動産の場合に、用益権の取得者と用益権の負担付所有権の取得者に分けて異
      なる相続人に分割するという方法です。

  ⑶ 分割の手続
    
    遺産分割の手続としては、指定分割、協議分割、調停分割、審判分割の四つの手続がありま
   す。

   ア 指定分割

     遺言による分割方法です。
     被相続人は、遺言で、分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託する
    ことができます(908条)。
    
   イ 協議分割

     共同相続人全員の合意による分割の手続です。
     分割の指定がないときは、共同相続人は、いつでも、その協議で遺産の分割をすることが
    できます(907条1項)。
     分割の内容は、全員の合意により、自由に定めることができ、特定の相続人の取得分をゼ
    ロとすることも可能です。分割の方法についても自由に選ぶことができます。
    
   ウ 調停分割

     相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は
    家庭裁判所に分割を請求することができます(同条2項)。
     直接審判を申立てることもできますが、家庭裁判所は、職権で調停に付することができ(家
    事事件手続法274条)、まず話し合いによる解決を試みるのが通常です。
     相続人の合意が尊重され、自由度が高く、その点で審判と異なります。
    
   エ 審判分割

     遺産分割調停が不成立となると、審判に移行します(同法272条4項)。
     審判においては、民法906条の分割基準にしたがい、各相続人に分割されることになり
    ます。

  ⑷ 遺産分割前の処分と遺産の範囲
    
    新設された906条の2(令和元年7月1日施行)は、「遺産の分割前に遺産が処分された
   場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時
   に遺産として存在するものとみなすことができる」(1項)とし、共同相続人の一人又は数人
   により財産が処分されたときは、当該共同相続人の同意を不要としました(2項)。
    従前は、処分された財産は相続財産から遺失し、相続人は持分に応じた代償債権を取得する
   も、遺産分割の対象とならない(共同相続人全員の合意があれば各別)とされていましたが、
   これにより、財産処分がされた場合の遺産分割における処理方法が明確化し、公平かつ円滑な
   遺産分割が可能となりました。

  ⑸ 遺産分割前の預貯金の払戻し制度

    改正法により遺産分割前の預貯金の払戻し制度が2つ設けられました(令和元年7月1日施
   行)

   ア 遺産分割前における預貯金債権の行使(909条の2、新設)
  
     預貯金債権については、従前、法定相続分に応じて当然に分割されるとされていましたが、
    平成28年の判例変更により、遺産分割の対象となりました。
     しかし、葬儀費用や被相続人の収入に依拠していた相続人の生活費等に充てる必要性を考
    慮し、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額につき単独で行使でき
    るものとしました。
     かかる権利行使がなされたときは、遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなさ
    れます。

   イ 遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分(家事事件手続法200条3項)
     
     遺産分割調停や審判が申立てられている場合に、家庭裁判所の保全処分により、各相続人
    が、預貯金債権於全部又は一部を仮に取得することができます。
     この場合は、単独で払戻しができる額は家庭裁判所が仮取得を認めた額となり、限度額の
    設定がありません。



 

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