民法(債権法)改正の要点2


 

  

  9 時効

    今般の債権法改正では、時効についても、①消滅時効期間の統一、②時効の「中断」・
   「停止」から新たな「更新」・「完成猶予」制度への変更を中心として、大幅な改変がな
   されており、社会・経済及び市民生活に大きな影響をもたらすと思われます。
  
   ⑴ 総則

    ア 時効の援用(第145条)

      改正法第145条は、「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証
     人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用し
     なければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」とし、括弧内の文言
     を付加しました。
      改正前、判例は、消滅時効を援用できる「当事者」を、「権利の消滅により直接利
     益を受ける者」とし、判断を積み重ねてきましたが、改正に際し、判例法理で明らか
     にされたところを例示しています。

    イ 裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新(第147条)

      改正前の第147条は、(時効の中断事由)の表題の下、「請求」、「差押え、仮
     差押え又は仮処分」、「承認」を中断事由としていました。
      時効の中断事由については複雑で分かりにくいとの指摘されていたことから、改正
     法では、新たな時効が確定的に進行することとなる事由「更新事由」を条文上明記し、
     「停止」についても、時効が完成すべき時が到来しても一定期間時効の完成が猶予さ
     れる「完成猶予」として整理されました。
      改正法第147条は、第1項で、時効の完成猶予事由として、裁判上の請求、支払
     督促、訴訟上の和解・調停、倒産手続参加をあげ、「その事由が終了する(確定判決
     又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が
     終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、
     完成しない」と規定しました。
      例えば、訴えが提起されると、その手続中時効は完成しませんが、「訴え取り下げ」
     によって訴訟が終了した場合には、終了時点から6カ月時効の完成が猶予されること
     になります。
      改正法第147条第2項は、「前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一
     の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由
     が終了した時から新たにその進行を始める。」とし、「更新」事由としました。
      なお、確定判決等については、確定時に弁済期が到来している債権であれば、更新
     による時効期間は10年となります(改正法第169条)。
  
    ウ 強制執行等による時効の完成猶予及び更新(第148条)

      改正前の第148条の「時効の中断の効力が及ぶ者の範囲」は改正法の第153条
     に移動し、改正法第148条は、狭義の強制執行だけでなく、担保権の実行、形式競
     売や財産開示の手続を含めて、集約し、整理をしました。
      ①強制執行、②担保権の実行、③形式競売、④財産開示手続について手続がとられ
     ると、手続終了まで時効の完成が猶予されます。
      ①~④の手続が終了し、執行によっても回収が充足しない場合、①~④の手続終了
     時点から新たに時効が進行します(時効の更新)。
      ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消によってその事
     由が終了した場合は、時効の更新はなく、その終了の時から6カ月間時効の完成が猶
     予されることになります。

    エ 仮差押え等による時効の完成猶予(第149条)

      仮差押え、仮処分は、改正前は時効の中断事由とされていましたが、改正法では完
     成猶予事由に止まるものとされています。
      仮差押え、仮処分は、「その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、
     時効は、完成しない。」と規定されました。
      なお、改正前の第149条は、(裁判上の請求)でした。

    オ 催告による時効の完成猶予(第150条)

      改正前、催告は、時効中断事由の一つとされたうえで、6ヶ月以内に改めて裁判上
     の請求等の手続をとらなければ、時効中断の効力を生じないものとしていました(第
     153条)。
      改正法第150条は、第1項で、催告を時効の「完成猶予事由」とし、第2項で、
     「催告によって時効が完成猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定によ
     る時効の完成猶予の効力を有しない」として、改正前にとらえていた解釈を明文化し
     ました。

    カ 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(第151条)

      改正前は、当事者が話し合いによって解決しようとしている場合でも、消滅時効の
     完成が迫ると訴訟提起等をして時効中断する必要がありましたが、改正法第151条
     は、権利についての協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録を含む)でされたときに
     は、時効の完成を猶予するという、新たな時効障害事由を設けました。
      改正法では、①協議を行う旨の合意から1年経過した時、②当事者が定めた協議期
     間(1年未満)が経過した時、③協議の続行を拒絶する通知から6か月を経過した時、
     のいずれか早い時まで、時効の完成が猶予されます(第151条第1項)。
      協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間に「再度の合意」がされ
     た場合、そこから第1項の規定に従って時効の完成が猶予されますが、時効の完成が
     猶予されなければ時効が完成すべき時から5年以内とされます(第2項)。
      同条第3項は催告との関係を規律し、催告による時効完成猶予の間にされた協議を
     行う旨の合意は時効完成猶予の効力を有さず、協議を行う旨の合意により時効の完成
     が猶予されている間にされた催告も時効完成猶予の効力を生じることはありません。
      協議を行う旨の合意は電磁的記録によってされてもよく(第4項)、拒絶の通知に
     ついても同様です(第5項)。

    キ 承認による時効の更新(第152条)

      時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める(第1項)。
      前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受け
     ていないこと又は権限のあることを要しない(第2項)。
      承認は、改正前の時効「中断」事由から「更新」事由に用語が変わりましたが、効
     果に変わりはありません。
      承認は、意思表示ではなく観念の通知であるため行為能力や権限を要しないものと
     されています。改正前の第156条に対応しています。

    ク 時効の完成猶予又は更新の於効力が及ぶ者の範囲(第153条)

      改正前の第148条は、「前条の規定による時効の中断は、その中断事由が生じた
     当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する」として時効中断の効力
     が相対的効力であるとしていました。
      改正法第153条は、第1項から第3項まで時効の完成猶予、更新事由を分類し、
     「・・の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する」
     とし、いずれも従前どおり相対効であるとしました。

    ケ 第154条

      強制執行等、仮差押え、仮処分による時効の完成猶予・更新に係る手続は、時効の
     利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ効力を生じ
     ません。改正前の第155条に対応する規定です。

    コ 未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予(第158条)

      夫婦間の権利の時効の完成猶予(第159条)、相続財産に関する時効の完成猶予
     (第160条)、第158条から第160条については、見出しが「中断」から「完
     成猶予」に変更されていますが、条文そのものは変わりません。
      なお、第155条から第157条は削除されています。

    サ 天災等による時効の完成猶予(第161条)

      改正法第161条は、「時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることの
     できない事変のため第147条第1項各号又は第148条各号に掲げる事由に係る手
     続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3箇月を経過するまでの
     間は、時効は、完成しない」としています(下線部が変更部分)。
      時効の「中断」事由から「完成猶予」となったものがあることと、「停止」が「完
     成猶予」に改称されたことによります。また、災害時において「2週間」の時効完成
     までの猶予間が現実的でないことから、「3か月」に伸長されました。

   ⑵ 取得時効

     取得時効の改正はありません。「中断」という用語もそのままです(第164条)。

   ⑶ 消滅時効

     取得時効とは異なり、消滅時効については大幅な改正がなされています。
     改正前は、債権の消滅時効は原則として10年とされていましたが、別に職業別の短
    期消滅時効が定められ、また商行為に基づく債権の於消滅時効期間は5年とされていま
    した。
     改正法は、短期消滅時効の規定を削除し、また法の消滅時効の規定も削除されました
    ので、債権の消滅時効は民法に統一されました。

    ア 債権等の消滅時効(第166条)

      債権は、債権者が権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間使
     しないとき消滅しますが(第2項)、これは改正前と同じです。
      それに加えて、権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から
     5年間行使しないときも消滅する(第1項)との規定が新設されました。
      新設された改正法第166条第2項は、改正前の第167条第2項に対応するもの
     で、「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間
     行使しないときは、時効によって消滅する」(下線が加筆部分)と規定されました。
      改正前の第2項は、第3項に移項しています。

    イ 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(第167条)
      改正法第167条は、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効
     についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるの
     は、「20年間」とする」としました。
      こうした改正により、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については、
     債務不履行に基づく場合と不法行為に基づく場合とでの時効期間の不一致が解消され
     ています。

    ウ 定期金債権の消滅時効(第168条)

      改正前は、「定期金の債権は、第1回の弁済期から20年間行使しないときは、消
     滅する。最後の弁済期から10年間行使しないときも同様とする」(第1項)とし、
     第169条で定期給付債権の短期消滅時効を定めていましたが、改正法では、第1項
     後段と第169条が削除されました。
      改正法は、支分権としての各債権を行使することができることを知った時(主観的
     起算点)から10年(第1項第1号)、各債権を行使することができる時(客観的起
     算点)から20年(第2号)で基本権たる定期金債権が時効消滅するとしました。
      第2項については、「中断」を「更新」に改めています。

    エ 判決で確定した権利の消滅時効(第169条)

      改正法第169条第1項は、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものに
     よって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであって
     も、その時効期間は、10年とする。」と規定しており、文言は違っても、改正前の
     第174条の2の規律がそのまま維持されています。
      改正前は、「裁判上の和解、調停その他」と、確定判決と同一の効力を有するもの
     を例示していました。第2項は全く同一です。

    オ 改正法は、第170条から第174条までを削除しました。

      第170条、第171条は3年の短期消滅時効、第172条、第173条は2年の
     短期消滅時効、第174条は1年の短期消滅時効に係る規定でした。



  


 

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