1 民事紛争の解決手段


 民事紛争を解決するには、①紛争類型や状況に応じた適切な解決方法を選択し、自ら解決に当る場合と、②専門職に委任する場合がありますが、後者については、相談等の内容に応じた職務権限(資格)を有し、信頼しうる専門家を選任する必要があります。             以下、参考として、「民事紛争の解決手段」、「法律関係専門職の選択」、「法律相談」、 「弁護士の選び方」について、順に概説します。


  1 民事紛争の解決手段
    民事紛争の一般的な解決手段として、①自力救済、②当事者の交渉による解決、③裁判
   外紛争解決手続(ADR)、④民事訴訟を挙げることができます。


   ⑴ 自力救済
    『自力救済』とは、当事者が実力をもって権利を実現あるいは回復することをいい、
   原則として禁止ですが、「法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害
   に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを
   得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例
   外的に許される」(最高裁昭40年12月7日判決)とされています。
    自力救済は、貸主による動産の搬出処分など不動産賃貸借契約の終了時に多々見られ
   ますが、原則として違法となり、損害賠償の問題も生じることになります。


   ⑵ 当事者の交渉による解決
    『当事者の交渉による解決』は、当事者間で合意を形成して紛争を解決するものであ
   り、合意内容を記した書面を合意書、示談書、和解書などと題しますが、互譲が要件と
   なっているのが和解(民法695条)、一方が全面的に譲歩する場合もあり得るのが示
   談とされています。
    和解の効力は、紛争の終結と確定効であり、後者は、和解で有するとされた争いの対
   象である権利が後に一方当事者にないと判明した場合、当該権利は和解により移転した
   ものとして扱い、逆の場合には、当該権利が和解により消滅したものとして扱うことに
   より(同法696条)、紛争の蒸し返しを防ぐこととしています。
    メリットとして、公序良俗に反しない限り私人間の生活関係は相互の交渉で自由に決
   めることができる(私的自治の原則)ことから柔軟な解決が可能、先々円満な関係が回
   復する可能性が高い、費用があまりかからない(特に自己対応の場合)といったことが
   挙げられます。
    デメリットとしては、解決内容の正当性について客観性が担保されない、当事者の意
   思にかかり紛争が解決しない場合があること、強制執行力がないことが挙げられます。
    分割払など将来債務を残す合意内容の場合、任意の履行がないときに強制執行をする
   ためには、別途訴訟を提起する必要が生じます。
    なお、合意内容が決まり、「訴え提起前の和解(即決和解)」(民訴法275条)を
   簡易裁判所に申し立てると、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し、和
   解調書に記載されると、確定判決と同一の効力(執行力)を有します(同法267条)。
    また、金銭債務に限りますが、合意内容を「公正証書」にし、執行認諾約款(支払い
   を怠った場合、直ちに強制執行を受けることを債務者が認諾する旨の文言)を付してお
   けば、強制執行を裁判所に申し立てることができます。


   ⑶ 裁判外紛争解決手続(ADR)
    『裁判外紛争解決手続(ADR)』は、当事者間での交渉が不調に終わった場合など
   に、公正中立な第三者が間に入り、話し合いを通じて解決を図るという手続です。
    提供主体により、司法型ADR(調停等)、行政型ADR(国民生活センター紛争解決
   委員会、公害等調整委員会等)、民間型ADR(公益型・業界型)に、手続の種類によ
   り、調整型(あっせん、調停)、裁断型(仲裁)に分類されます。
    ちなみに、神奈川県弁護士会では、「住宅紛争審査会」、「交通事故相談センター」、
   「紛争解決センター」の3つのADRを設けています。
    訴訟との相違は合意の存在にあり、ADRでは紛争の解決に必ず当事者の合意(仲裁
   は、仲裁を受けることにつき当事者双方の事前の同意(仲裁合意))が必要です。 

   ア 司法型
     「調停」(ここでは民事調停を対象とします。)
     は、裁判官と民間人2名以上からなる調停委員会が仲介し、話し合いにより紛争を解
     決する手続で、簡易裁判所が管轄となります。
      調停の効力としては、合意が成立し、調停調書に記載されると、確定判決と同一の
     効力があります。
      手続が簡単で、比較的早期に、実情に合った円満な解決を期待することができ、費
     用が低額で(手数料(印紙代)は訴訟の半額が基準です)、非公開のためプライバシー
     が守られるという特徴があります。
      しかし、調停が不成立の場合、最終的に解決するためには、改めて訴訟を提起する
     必要があります。
      なお、不成立により調停が終了した場合等において、通知を受けてから2週間以内
     に訴えを提起すると、調停の申立て時に訴えの提起があったものとされ(民事調停法
     19条)、併せて、取得した不成立証明書を提出すれば印紙代の流用ができます。
      「訴え提起前の和解(即決和解)」(民訴法275条)は前述しましたが、これも
     司法型ADRのひとつとされます。

   イ 行政型、民間型
     「あっせん」は、当事者の自主性に比重が置かれ、自主的解決の援助、促進を主眼
     とする手続、「調停」は、解決案を提示するなど調停機関が積極的に介入する手続と
     いう点で差異があります。
      あっせん、調停のいずれも、合意内容を強制できません(執行力なし)。
     「仲裁」は、相互の合意により、仲裁人の判定(仲裁判断)に服することを約し、
     それに基づいて行われる仲裁人による手続で、いわば私的裁判というべきものです。
      仲裁判断には確定判決と同一の効力が認められますが、強制執行をするには、仲裁
     判断に基づく強制執行を許可することを宣言した執行決定を得る必要があります。
      これらADRは、日常生活で身近な少額事案、秘密保持が必要な事案、訴訟による
     解決に馴染まない事案、証拠が不十分で立証が難しい事案等に向いているとされます。
      なお、公害等調整委員会のみが行う制度として「裁定」があり、損害賠償責任の有
     無及び賠償額について判断する「責任裁定」と、被害と加害行為との間の因果関係に
     関する法律的判断のみに限定した「原因裁定」の2種類があります。
      また、国民生活センター紛争解決委員会は、合意事項が守られない場合、当事者か
     らの申し出があり、紛争解決委員会が相当と認めるときは、当該合意を守るように勧
     告することができるものとし(義務履行の勧告)、和解の仲介が終了した場合に、必
     要と認めるときは結果の概要を公表できるものとしています。


   ⑷ 民事訴訟
    『民事訴訟』は、裁判所が手続を主催する中立的な紛争解決手段であり、解決基準が
   実体法であるため、審判の対象は、実体法の適用によって解決可能な法律上の権利義務
   に関する紛争となります。そして、最終的な、かつ強制的な(応訴を欲しなくても訴訟
   が開始し、被告が不出頭でも判決が出され、当事者はその判決に拘束される)解決手段
   ということができます。
    民事訴訟で採られている基本的な原則として、訴訟の開始、訴訟物の特定、訴訟の終
   了について当事者の自律的な判断に委ねられるとする原則(処分権主義)、事実と証拠
   の収集を当事者の権限とする建前(弁論主義)があります。
   後者は、①当事者の主張しない事実を裁判所は判断の資料としてはならない、②当事者
   間に争いのない事実はそのまま判断の資料としなければならない、③当事者間に争いの
   ある事実を証拠によって認定するには、当事者の申し出た証拠に拠らなければならない、
   という3つのテーゼに集約されます。
    裁判所は、訴訟関係を明瞭にするために当事者に問いを発し、立証を促すことができ
   ますが(釈明権)、最終的な判断権は当事者に委ねられていますし、行き過ぎると、一
   方当事者に有利又は不利な状態もたらすことにもなります。
    要するに、裁判所は、当事者の申し出た審判対象のみにつき、当事者の主張や提出さ
   れた証拠だけに基づいて判断しなければならないということです。裁判になれば、また、
   裁判所に任せておけば、真実を究明するために、積極的に当事者の主張を補充し、不足
   する証拠を収集して、あるべき判決を下してくれる、ということではありません。
    架空請求(身に覚えのない請求)には応対しないのが原則ですが、訴訟となった場合
   には、出頭しないと、上記原則から、欠席のまま原告の主張通りの判決が下されること
   になりますので、注意が必要です。
    なお、訴訟になっても、判決ではなく和解(訴訟上の和解)によって終了する割合が
   高いのですが(特に損害賠償等の金銭債権)、判決を書く負担が大きいということばか
   りではなく、(当事者が支払うということから)債務が履行される可能性が高いこと、
   円満な解決となると想定されることなども理由となっています。


   ⑸ その他の手続
     広義の民事訴訟概念として、付随手続(民事保全、強制執行等)や特別手続(人事訴
   訟、行政訴訟、少額訴訟、督促手続、労働審判等)があります。
    「少額訴訟」や「督促手続」は、市民にも使いやすいように、簡易で費用低廉な手続
   となっています。
    いずれの手続についても、裁判所等により、インターネット上でその詳細が開示され
   ていますので、参照されることをお勧めします。










 

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