2 法律関係専門職の選択


 専門職に依頼する場合、当該事案や依頼内容に応じた専門職(有資格者)を適切に選択する
ことになります。
 ただ、いわゆる士業の業務範囲については、権限の拡張により複雑化している上、見解の相
違もあり(業際問題)、正確な理解、把握が困難な状況にあることから、大枠を掴み、依頼の
目的・趣旨に沿って、専門職を賢く利用する必要があります。


  ⑴ 弁護士、司法書士、行政書士の基本的な業務
    ここでは、市民生活に関係の深い、弁護士、司法書士、行政書士の基本的な業務
   のうち、重畳していたり、問題が生じやすいものについて概説するにとどめます。 
                          
   ア 書類の作成、相談
  
     いずれも「書士」とされているように、司法書士は、「裁判所等に提出する書類」を、
    行政書士は、「官公署に提出する書類」、「権利義務又は事実証明に関する書類」を作成
    することが基本業務の一つとなっています。
     しかし、両者ともに、依頼者の意向に沿った、あるいは定まった内容についての書面作
    成に限られ、いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは業務範囲を超える
    ものと解されます。
     また、その相談も、書類の作成に必要な範囲、すなわち、法律常識的な知識に基づく整
    序的な事項に限られるというべきです。
     これに対し、弁護士は、上記のうち、法律事務に当らない「事実証明に関する書類」を
    除く書類について、専門家としての自らの判断を基に作成することができ、相談内容につ
    いても特に限度はありません。
     なお、「認定司法書士」については、「簡裁訴訟代理等関連業務」の範囲内、要するに、
    140万円を超えない一定の民事紛争の限度で、弁護士と同様の業務が認められています。
    
   イ 法律相談

     「法律相談」の定義は困難ですが、抽象的には、法的な権利・義務関係についての相談
    をいい、紛争解決に向けての法的手段の教示や判断がその中核となり、具体的な法律問題
    案件の存在を前提としていると考えておけばよいでしょう。
     なお、弁護士法74条第2項は、「弁護士又は弁護士法人でないものは、利益を得る目
    的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の表示又は記載をしてはならない」と規定し
    ています。
     有償での法律相談とその表示行為は、弁護士及び認定司法書士(前述の限度内)だけが
    行うことができます。

   ウ 鑑定、和解、訴訟等

     「鑑定」は、法律上の専門知識に基づいて行う評価・判断をいい、損害算定や過失割合
    の判断等が該当します。「和解」は、当事者相互の譲歩によって紛争を解決することをい
    い、互譲を要件としないものが「示談」とされます。
     これらについては、「認定司法書士」にも、前述の権限の範囲内で認められていますが、
    制限なく行えるのは、弁護士のみとなります。
     なお、近時、「特定行政書士」に、行政庁に対する審査請求、異議申立て、再審不服申立
    て手続の代理権が与えられました。
  
  ⑵ 業務範囲についての補足

   ア 法律相談、和解(ないし示談)の特殊性

     法律相談は、限られた時間内で、限られた事実と情報に基づき、広範な法律分野にわたる
    問題について評価、判断し、解決手段の教示や見通し等の見解を示す必要があり、経験を有
    する弁護士にとっても難しい業務の一つです。
     また、初期相談の誤りは、その後の解決手続の進行や結果に大きな影響を及ぼすことにも
    なります。
     裁判外の手続である和解(ないし示談)では、後見等の役割を果たすべき中立的な第三者
    (裁判官等)が存在しないため、必ずしも客観的に正当な解決がなされるとは限らず、権利が
    適切に擁護されなかったり、法秩序に違背するということさえ生じかねません。
     いずれについても、高度の専門知識と倫理性を備える弁護士こそがその業務を担うべきも
    のとされてきた所以です。

   イ 各職の使命、制度趣旨等

     司法書士法1条(目的)は、「この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図
    ることにより、登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もって国
    民の権利の保護に寄与することを目的とする」とし、21条(依頼に応ずる義務)で、「司法
    書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除
    く。)を拒むことができない」としています。
     行政書士法1条(目的)は、「この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図
    ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、あわせて、国民の利便に資するこ
    とを目的とする」とし、11条(依頼に応ずる義務)で、「行政書士は、正当な事由がある
    場合でなければ、依頼を拒むことができない」としています。
     このように、司法書士及び行政書士については、行政補助職として発達してきた歴史、そ
    の制度目的、原則として受任義務があることなどからして、定型的な業務が想定されている
    といえるでしょう。
     そして、司法書士は法務省の所管で、懲戒権者は、事務所所在地を管轄する法務局、地方
    法務局の長であり、行政書士は総務省の所管で、懲戒権者は、事務所所在地を管轄する都道
    府県知事となっています。
     これに対し、弁護士は、司法の一翼を担い、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する
    ことを使命とし」、「誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力し
    なければならない」(弁護士法1条第1項、2項(弁護士の使命))のであり、「常に、深
    い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない」(同
    2条)とされています。
     そのため、司法試験に合格後、最高裁所属の司法修習生として、司法研修所における研修、
    裁判所、検察庁、弁護士会での実務修習を終了し(修習期間は2年であったところ、1年半、
    1年4か月を経て現在は1年)、更に司法修習生考試(通称二回試験、1日1教科で5日間
    にわたって行われる)に合格して、初めて弁護士登録(裁判官、検察官の任官)が可能とな
    ります。
     そして、時には国家権力とも対峙しなければならないその職責に鑑みて、弁護士には、監
    督官庁はなく、弁護士自治が認められています。ただし、職務の独立性を担保するため、不
    祥事等は懲戒制度等に委ね、弁護士会が所属弁護士を直接に指導・監督することは制限され
    ています。
     なお、認定司法書士は、「司法書士及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律」(平成
    14年法律第33号)により設けられた資格で、所定の研修(100時間)を受け、能力認
    定考査に合格して、法務大臣から認定を受けた司法書士をいい、140万円を超えない限度
    で、簡裁での民事訴訟等の手続や(それに対応する)民事紛争についての相談や和解その他
    につき代理業務を行うことができます。
     ただ、認定司法書士制度は、弁護士数の不足、地域的偏在という状況下において、「当面
    の法的需要を充足させるための措置」(司法制度改革審議会意見書)とされ、過渡的、暫定
    的な措置とみるべきものです。

   ウ 依頼に際して考慮すべき事柄

     司法書士、行政書士の基本的な業務は、前述のとおり、書類の作成業務であり、相談も書
    類作成のための、法律常識的な知識に基づく整序的な事項に限られることになります。
     認定司法書士には、簡易裁判所における民事訴訟等の代理権限がありますが、140万円
    を超える場合には、受任できず、あるいは辞任の問題が生じ、債務整理から(無権限の)破
    産手続に移行する場合には代理人となれず、控訴状の提出は可能であるものの、地方裁判所
    での控訴審の受任はできないなど、その権限が一定限度に留まることによる不都合が生じ得
    ます。
     また、費用も、業務が同一範囲であれば弁護士と他士業とで大きな相違はないと思われま
    すし、弁護士法違反の事例では、むしろより高額であることも多々みられるところです。
     そのような諸事情を考慮したうえで、依頼内容や依頼事項が定まっており、当該専門職の
    業務の範囲内であることが明確である場合には、信頼に足る当該専門職に相談、依頼をする
    こともよいでしょう。
     しかし、法的問題についての判断や評価を求め、いかなる法的手続をとるべきか、解決の
    見通しなどについて相談したい、あるいは紛争解決を依頼したいということであれば、法律
    事務全般についての権限を有する弁護士に法律相談を受け、依頼をするのが順当といえるで
    しょう。そして、必要に応じ、他の専門職の紹介を受けることもできるでしょう。

  ⑶ 弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

    参考として、業際問題を考える際の基本的な規定となる弁護士法72条について触れておき
   ます。
    弁護士法72条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟
   事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律
   事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、またはこれらの周
   旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律または他の法律に別段の定めがあ
   る場合は、この限りではない」として、非弁護士の法律事務の取扱い等を禁止しています。
    弁護士法72条は、他面で法律事務の弁護士独占を定めた規定でもあるところ、それは、弁
   護士の権益や職域を擁護するものではなく、国民の法律生活の公正円滑な営みを保護し、わが
   国の法律秩序を守ることを目的としたものであって、公益的規定とされています。
    非弁行為として対象となるのは、「報酬目的」をもって「業として」行われた法律事務であ
   り、「たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため行為で弁護士を紹介するとか、
   社会生活上当然の相互扶助的協力をもって目すべき行為まで取締まりの対象とするものではな
   い」(最高裁大昭和46・7・14判決)とされます。
    違反には刑罰が科されますが(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、同法77条)、
   依頼者については処罰規定がなく、共犯(教唆犯、幇助犯)にもならないとされています。
    他の法律による別段の定めとして、司法書士法、行政書士法、税理士法、弁理士法、社会保
   険労務士法、債権管理回収業に関する特別措置法に規定する事務があります。
    なお、特定行政書士、特定社会保険労務士、付記弁理士の制度が設けられ、特定の業務につ
   いて代理権等が認められ、税理士は租税に関する事項について保佐人として裁判所において陳
   述することができることになっています。
    弁護士の職務範囲は、法律事務全般にわたり、当然に弁理士、税理士の事務(弁護士法3条
   第2項)を、同条にいう一般の法律事務として司法書士の事務を行うことができ、行政書士
   (行政書士法2条)、社会保険労務士(社会保険労務士法3条第2項)の資格を有します。また、
   海事代理士の業務を行うことができると解され、登録により海事保佐人の身分を取得するもの
   とされています。
    逆にいえば、弁護士の広範な業務のうちの特定の一部が、司法書士、行政書士、税理士、弁
   理士、社会保険労務士に認められているということになります。
 
  ⑷ 事件性について

    弁護士法72条が、「その他一般の法律事件に関して・・・その他の法律事務を取り扱い」
   としているところから、同条に列挙されている訴訟事件等に準じる程度に法律上の権利義務に
   関する争い若しくは疑義があり、「事件」というにふさわしい程度に争いが成熟していること
   が必要であるとする考え方があります(事件性必要説)。
    そして、事件性必要説の立場から、事件性のない事案については弁護士以外も業務となしう
   るとの主張がなされています。
    これに対し、日弁連は、事件性不要説をとっています。非訟事件中には紛争性のないものが
   あり、また、家事審判法の甲類審判事件では紛争概念は不要であるとされていますし、裁判例
   には事件性を不要とするものもあります。
    最近の裁判例では、事件性といっても、司法書士会や行政書士会が主張するような、権利義
   務の争いや疑義が具体化・顕在化していることまでをも要するとしているものはないようです。

  ⑸ 業際問題に関する裁判例の判旨
  
   ア 弁護士法72条の立法趣旨

    ・最高裁大昭和46・7・14判決
     「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うこと
     をその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、か
     つ、その職務の誠実適正な遂行のための必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の
     処置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも
     服さない者が、みずからの利益のため、他人の法律事件に介入することを業とする例もな
     いではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活
     の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、
     かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである」
     「弁護士法72条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所
     定の法律事務を取り扱いまたはこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するの
     が相当である」
 
   イ 事件性

    ・札幌高裁昭和46・11・30判決
     「弁護士法72条前段にいう「その他一般の法律事件」とは同条例示の事件以外の、「権
     利義務に関し争いがあり若しくは権利義務に関し疑義があり又は新たな権利義務関係を発
     生させる案件」を指すと解するのが相当であ(る)」
    ・浦和地裁平成6・5・13判決
     「弁護士法3条と72条とはその表現に若干の相違があるが、3条は弁護士の職務の面か
     ら、72条は非弁護士が取り扱ってはならない事項の面から、それぞれ同一のことを規定
     しているものであり、これに「事件性」という不明確な要件を加えることは、罪刑法定主
     義の精神にも反し相当でない」
    ・最高裁平成22・7・20判決
     「立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合
     意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するものであって、立ち退きの合意の成否、立ち退
     きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生
     ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72
     条にいう「その他一般の法律」に関するものというべきである」

   ウ 司法書士の弁護士法72条違反

    ・高松高裁昭和54・・6・11判決
     「制度として司法書士に対し、弁護士のような専門的法律知識を期待しているのではなく、
     国民一般として持つべき法律知識が要求されていると解され、したがって、上記の司法書
     士が行う法律的判断作用は、嘱託人の嘱託の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)
     の運営に支障を来さないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基づく整序的な事
     項に限って行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理
     その他の方法で他人間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を越えたものとい
     わなければならない」
    ・富山地裁平成25・9・10判決
     「訴状、答弁書又は準備書面の作成は、他人から嘱託された趣旨内容の書類を作成する場
     合であれば、司法書士の業務範囲に含まれ、弁護士法72条違反の問題を生ずることはな
     いが、いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは、司法書士の固有の業務
     範囲には含まれないと解すべきであるから、これを専門的法律知識に基づいて判断し、そ
     の判断に基づいて書類を作成することは同条違反になるものと解されており」
    ・大阪高裁平成26・5・29判決
     「司法書士が裁判所類作成関係業務を行なうに当って取り扱うことができるのは、依頼者
     の意向を聴取した上、それを法律的に整序することに限られる。それを超えて、法律専門
     職としての裁量的判断に基づく事務処理を行ったり、委任者に代わって実質的に意思決定
     をしたり、相手方と直接交渉を行ったりすることは予定されていない」
 
   エ 行政書士の弁護士法72条違反

    ・大阪高裁平成26・6・12判決
     「将来法的紛議が発生することが予測される状況において行政書士が行った書類の作成や
     相談応じての助言指導は、行政書士の業務(行政書士法1条の2第1項)に当らず、また、
     弁護士法72条により禁止される一般の法事件に関する法律事務に当たることが明らかで
     あるから、行政書士が取り扱うことが制限されているものである」
     「行政書士は、加害者との間で将来法的紛議の発生することがほぼ不可避である状況にお
     いて、その事情を認識しながら、病院宛ての上申書や保険会社宛ての保険金の請求に関す
     る書類等を作成・提出し、これらの書類には、被害者に有利な等級認定を得させるために
     必要な事実や法的判断を含む意見が記載されており、一般の法律事件に関して法律事務を
     取り扱う過程で作成されたものであって、行政書士法1条の2第1項にいう「権利義務又
     は事実証明に関する書類」とはいえないから、弁護士法72条ただし書の適用はなく、こ
     れらの書類の作成については、弁護士法72条により非弁護士による事務の取扱いが禁止
     されるものである」
    ・東京地裁平成27・7・30判決
     「被告は当該相続手続に関し、将来法的紛議が発生することが予測される状況において書
     類を作成し、相談に応じて指導助言し、交渉を行ったものといわざるを得ず、かかる被告
     の業務は、行政書士の業務(行政書士法1条の2第1項)に当らず、弁護士法72条によ
     り禁止される一般の法律事件に関する法律事務に当たることが明らかであるから、行政書
     士が取り扱うことが制限される」








 

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