民法(債権法)改正の要点10


 

  

  11 契約

   ⑵ 贈与


    ア 贈与(第549条)

      改正法は、「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表
     示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と規定し、改正前
     の「自己の財産」から「ある財産」に変更しました。
      これは、他人の財産(他人物)についても贈与が可能であるとする判例法理を、
     法文上も明確にしたものです。

    イ 書面によらない贈与の解除(第550条)

      改正法は、「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただ
     し、履行の終わった部分については、この限りでない」として、改正前の「撤回」
     から「解除を」に変更して、用語の統一を図りました。なお、履行を終えていない
     場合であり、解除の総則規定のうち、第545条、第546条、第548条の適用
     はなく、第547条も贈与の無償性から適用がないと解されます。

    ウ 贈与者引渡義務等(第551条)

      改正前の「贈与者の担保責任」という標題から変更し、第1項を「贈与者は、贈
     与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又
     は移転することを約したものと推定する。」と改正しました。
      贈与の無償性から、改正法においても贈与者の責任を軽減しています。
 
   ⑶ 売買

    ア 手付(第557条)

      改正法は、第557条第1項を「買主が売主に手付を交付したときは、買主はそ
     の手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができ
     る。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と改正
     しました。「償還」を「現実に提供」に、また改正前は、本文で「当事者の一方が
     契約の履行に着手するまでは」としていたものを変更しています。
      解除権を行使する当事者が自ら履行に着手していても、いまだ履行に着手してい
     ない当事者に対しては解除権を行使し得るとした判例法理を明文化したものです。

    イ 権利移転の対抗要件に係る売主の義務(第560条)

      改正法は、「売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の
     移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。」との規定を新設しました。
      売主の義務として、財産権移転義務、引渡義務、対抗要件具備義務があるとされ
     ますが、改正法は、対抗要件具備義務を明文化しました。

    ウ 他人の権利の売買における売主の義務(第561条)

      改正前の第560条が改正法の第561条に移動しました。また、「他人の権利
     (権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)」と括弧書き
     を加えて、権利の一部が他人に属する場合にも、移転義務を負うことを明文化しま
     した。

    エ 買主の追完請求権(第562条)

      改正法は、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適
     合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の補修、代替物の引渡し
     又は不足分御引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、
     買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法
     による履行の追完をすることができる。」(第1項)、「前項の不適合が買主の責
     めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完
     の請求をすることができない。」(第2項)と規定し、契約不適合責任の一つとし
     て、追完請求権を明記しました。

    オ 買主の代金減額請求権(第563条)

      改正前は数量不足の場合を除いて認められなかった買主の代金減額額請求権を改
     正法は認め、売買契約の一部解除と機能的には同じことから、改正法第541条か
     ら第543条の規定ぶりと同様にしています。
      催告による代金減額請求(第1項)の場合、不適合の程度に応じた代金の減額を
     請求できます。
      無催告の代金減額請求(第2項)の場合、改正法第542条第1項1号、2号、
     4号、5号と同様の規定ぶりとしています。
      第3項は、「第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるとき
     は、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。」とし
     て、改正法第543条と同様の規定となっています。

    カ 買主の損害賠償請求及び解除権の行使(第564条)

      改正法は、「前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに
     第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。」とし
     て、契約不適合があった場合、債務不履行の一般規定に基づいて損害賠償請求権、
     解除権を行使できることを明文で規定しました。

    キ 移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任(第565条)

      改正法は、「前三条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合し
     ないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移
     転しないときを含む)について準用する。」として、権利の契約不適合の場合も、
     物についての契約不適合と共通に扱うものとしました。
      権利の全部が他人に属する場合は、債務不履行の一般原則によります。

    ク 目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限(第566条)

      改正により、担保責任の期間制限を受けるのは、「目的物の種類又は品質に関す
     る契約不適合」に限定され、「目的物の数量に関する契約不適合」、「権利に関す
     る契約不適合」については期間制限がありません。
      また、改正前は、1年以内代金減額や解除等の「権利行使」をしなければなりま
     せんでしたが、「通知」で足りることとしました。

    ケ 目的物の滅失等についての危険の移転(第567条)

      改正法は、売買の目的物が引渡後や買主の受領遅滞中に当事者双方の責めに帰す
     ることができない事由によって消滅、破損した場合についての規定を新設しました。
      引渡後は、買主は、履行の追完、代金減額、損害賠償の請求や解除をすることが
     できず、他方、代金の支払いを免れません(第1項)。
      受領遅滞中の場合についても同様です(第2項)。

    コ 競売における担保責任等(第568条)

      改正法は、改正前の規定で「強制競売」とされていたものを「民事執行法その他
     の法律の規定に基づく競売」とし、競売一般に適用されるとする判例法理を明記し
     ました(第1項)。
      また、「前三項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合について
     は、適用しない。」とする第4項を新設し、改正前の第570条但し書きの内容を
     維持するものとしています。
      担保責任について、権利の瑕疵の場合は解除権、代金減額請求権に限定し、物の
     瑕疵の場合は認めないとする従来と同様の規定内容となっています。

    サ 抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求(第570条)

      改正法第570条は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特
     権、質権又は抵当権が存していた場合に、費用を支出して所有権を保存したときは
     費用の償還請求ができるとする規定です。
      改正前の第567条に対応し、その第1項と第3項を削除したものとなっていま
     すが、これは、契約の解除、損害賠償請求は債務不履行の一般原則によって可能と
     されることによります。

    シ 売主の担保責任と同時履行(第571条)―削除

      契約不適合責任が債務不履行責任とされたことにより、解除による原状回復の同
     時履行については一般規定(第546条―第533条を準用)が適用されるため、
     改正前の規定は確認的な意味のみとなり必要性が乏しいとして削除されました。
      なお、実質的な一部解除である代金減額請求は第546条によればよく、履行請
     求の変形物である填補賠償には、当然、同時履行の規定(第533条)が適用され
     ます。

    ス 担保責任を負わない旨の特約(第572条)

      改正前の文言「第560条から前条までの規定による」が「第562条第1項本
     文又は第565条に規定する場合における」に変更されています。
      原則として担保責任を負わない旨の特約は有効ですが、知りながら告げなかった
     事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については責任を
     免れません。それに変わりはありません。

    セ 権利を取得することができない等のおそれがある場合の
                      買主による代金の支払の拒絶(第576条)

      改正法は、「売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由によ
     り、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は
     失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部または一
     部の支払を拒むことができる。ただし、・・・」として、下線部を加え、点線部の
     ように変更しました。
      代金支払拒絶権は、所有権の帰属のみならず目的物に用益物権ありとの主張や権
     利を取得できないおそれがある場合にも認められるとする通説を明文化しました。

    ソ 抵当権の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶(第577条)

      改正法は、改正前の第1項、第2項に「契約の内容に適合しない」との文言を付
     加しました。
      これは、抵当権等の担保物件の存在を前提に代金を定めて不動産を売買した場合
     には、買主の代金支払拒絶権や費用償還請求権、売主の抵当権抹消請求をすべき旨
     の請求を認める必要はないとの従前からの解釈を明文化したものです。



 

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